儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

レビュー「これをDVDにしてください」

 僕は未だにVHSを使っている映画ファンです。

 

 と、そんな風に書くと、いろんな人から「これだから、自称・映画好きは。無意味に古いものにこだわりやがって」とか言われそうな気がしますが、そういうわけではありません。正直、VHSはそんなに好きじゃないです。あれには、販売されたときから、ベータという優れた他のソフトが既にありましたし、それにVHSはテープの宿命で、再生すればするほど、あっさりとテープが伸びていきます。おかげで、映画のBGM等が、ぐわーんと(酷いときには)半音くらい音が下がったりしてものすごく聞き辛いときさえあります。僕だって出来ればDVDを使っていきたいです。

 でも、使わざるをえない。なぜかというと、それは単純で、VHSじゃないと見れない映画が大量にこの世にはありやがるからです。「別に、VHSの作品なんて見れなくてもいいじゃないか」という人も多いかもしれません。「DVDになれなかった作品なんだから、きっと、つまらないに決まってるんだろうし…」という意見です。僕もそう考えてしまう気持ちは分かります。僕だってそんな風に考えてVHSは無視していた時代がありました。

 が、現実はそんなに単純じゃなかったりします。権利問題等でDVD化が出来なかった作品とかも大量にあったりするわけで、しかも、そういう権利問題でDVD化出来なかった作品に限って、とんでもない傑作だったりすることもしばしばあるわけです。

 譬えば、このブログでレビューを書いた「リカちゃんとヤマネコ 星の旅」は、未だにVHSでしか見ることが出来ない作品です。(レビューの記事に書いてある事情を考慮すれば、DVD化が難しいのも当然のことだとは思いますが)で、映画の内容がつまらないかというと、そんなことはなく、記事に書いたとおり、あれはとても素晴らしい映画です。

 そんな感じで、DVD化されていない作品はよくあります。特に、90年代前後のアニメ映画は、バブル期の煽りをモロに食らって、ほとんどの作品がVHSのまま放置されっぱなしだったりします。有名なものでは「ペンギンズ・メモリー 幸福物語」があります。この映画は元々大評判だったCMから作られたもので、内容としてはディアハンターに近く、CMでも使われているこのバーシーンはいま見ても素晴らしいものです。

 が、それでもDVDには未だになっていません。そんな作品がいっぱい世の中には埋まっていたりするわけです。

 これも、そんなアニメの一つでしょう。

COSMOPOLICE JUSTY

 こちらの作品、有名な作画監督である高橋資祐監督のOVAなのですが、なかなか目を見張るような場面のある、面白い映画でした。ストーリーラインにご都合の場面があったり、いかにもスタジオぴえろといった趣きのヒロインなど、鼻につくところもありますが、しかし、それを勘定に入れたとしても、まったくお釣りが来るほど、戦闘描写がかっこいいんですね、このアニメ。

 このアニメは暗い、暗い――というよりも、真っ黒な画面から始まります。そして、その真っ黒な画面をちょっと眺めていると、そこに閃光がバシッと走ります。それも一つじゃなく、しかも何度と応酬するように、バリっと。そして、更に一瞬、人の姿が浮かぶ。またもう一人別の人の姿もふっと真っ黒な中から浮かんでくるんです。それで、これはなんだろうなと思っていると、その閃光がビシビシとその人の周りを駆け抜けていって――そして、そのまま超能力者同士の念動力を使った戦闘シーンに移行するわけです。

 これがどれほど奇抜で、どこかお洒落で、かつ、かっこいい始まり方であるか、ということは想像に難しくないと思いますが、なによりも、この真っ黒な画面の演出が、主人公たちが闘っている宇宙空間そのものの"静けさ"のようなものを大変見事に表現していると僕は思います。実際、上記のシーンはひたすら静かなんです。静かな中に、ただ念動力の音だけが響くという。まるで、古い西部劇か時代劇のような演出です。

 序盤の戦闘シーンはこのように「静けさ」がメインなのですが、これが後半になると様変わりして、とても素早くテンポがいい、激しい戦闘描写に変わるところもたまりません。テンポがいい、と書きましたが、正確にはこの戦闘描写は少し定型からテンポをあえて崩している印象があったりします。ただ、その崩し方がなによりもかっこいい。まるで、フェイクのような、テンポの取り方といった印象。見終わった後、きっと、その崩れたテンポのおかげで「自分は斬新なものを見たのだ」という満足感で満たされることでしょう。

  これほど素晴らしいアニメでも、DVDにならないのかと思うと残念です。

 なぜ、これをDVDにしないのでしょうか。

 

 また、このアニメも素晴らしい。

トトイ

トトイ〈劇場版〉 [VHS]

トトイ〈劇場版〉 [VHS]

 こちらも、素晴らしい映画でした。エコロジー的なテーマが少し鼻についてしまうところがありますが、全体的には、とても描写が緻密で、かつ各々のキャラクターもよく描けています。また、エコロジーアニメにありがちな、動物への無意味な神格化といったものも行なっておらず、誠実に作られていることが伺えます。

 さきほどのジャスティとは違って、こちらは本当にベタといっていいほどの話と、それを彩る画の美しさが特長です。作品自体を流れる時間もとてもゆったりとしています。しかし、作品のテンポが悪いかというと、もちろんですが、そんなことはありません。むしろ、随所に緊張感のあるシーンを混ぜることで見ているこちらを決して飽きさせません。アザラシとトトイが初めて対峙するシーンは、面白いですね。エコロジーアニメでありながら、アザラシを最初、畏怖なるものとして描くことは珍しいです。しかし、その畏怖なるものから、トトイとアザラシが交流していくからこそ、欺瞞にならないものがちゃんとこの映画に流れていることが分かります。

 また、画の美しさという意味でいえば、この映画は水面を映す場面が素晴らしいです。水の特殊効果がとても綺麗で、見ているだけでも、僕なんかは感心させられてしまいます。そして、ここを美しく描くからこそ、あのアザラシの親子が洞窟にいるということに説得力があり、環境保護のテーマにも嘘臭さが抜けています。

 

劇場版リトルツインズ「僕らの夏が飛んでいく」

リトルツインズ 劇場版「ぼくらの夏が飛ん [VHS]

リトルツインズ 劇場版「ぼくらの夏が飛ん [VHS]

 これもまた貴重なVHSだと思います。リトルツインズというのは、OVAで販売されていたアニメシリーズで、この「僕らの夏が飛んでいく」はその中でも唯一劇場で流されたエピソードになります。

 リトルツインズシリーズは、パステルや水彩で描かれたとおぼしき背景などが特徴です。これらの画は、デジタル技術が進んでしまっている現在のアニメでは、あまり見られない貴重なもので、まずなによりも、このアニメシリーズを見るときは、この「背景等の面白さ」が目につきます。これが素晴らしい。この背景が、物語の中の時間の進み方によって「夕方には赤く」「夜には青く」「朝方には白く」なったりと、変化して行くのですが、この変化を見ているだけでも、心が穏やかになります。

 ただ、この映画は別に、穏やかなことだけを描きたい映画というわけではないのです。この映画で、小人たちは、穏やかに、非常に牧歌的とも言えるほどの平和な日常を謳歌していくのですが、でも、その日常にも、やがて終わりが来てしまいます。「僕らの夏が飛んでいく」という、この題名にも現れていますが、この物語は、夏という一つの楽しくて明るい季節が飛んでいってしまいます。これはどういうことなのかというと、つまり、この映画は、子どもが、ほんの少しだけ大人へ成長した瞬間を描いている映画なのです。

 それは非常に普遍的なテーマですし、だからこそ、僕はこの作品もDVD化すべきものだと思っています。

 

 今回は、以上です。

 まだまだ紹介したいVHS作品もありますし、それにまだ自分が発見してない、埋もれている作品もいっぱいあると思います。そういったものが見つかったときに、またレビューを書こうと思います。

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