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儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画レビュー:暗闇から手をのばせ


『暗闇から手をのばせ』予告編 - YouTube

 

止められた車の中で、じっとしている二組の男女。女の人はタバコを吸っており、男はそれを煙たそうにしている。男が女に尋ねる。「緊張している?」「いえ、そんなに」そういうやりとりのあと、男が腕時計を見ながら「時間だ」とつぶやいた。男女は車から出て、一軒のアパートへと向かっていく。アパートには、車椅子に座っている男がいる。「新人さん?」と尋ねる車椅子の男。

女の名前は沙織、彼女はデリヘル嬢であり、その日から男:津田が経営する「障害者専門のデリヘル」で働くことになったのだが――

 

障害者の性事情、というものは、なかなか健常者には実感のしずらい題材だと思います。「明日は我が身で、自分が障害者になるかもしれないと一秒も意識してない人が多すぎる」「かわいそうとかそういうこと言うやつは、あまりにも無神経だ」とか、普段そんなことを考えている自分でさえ、この、障害者の性事情というものはあまり意識をしたことがありません。そういった僕も含めた”人たち”にとって、この映画は見るべきものだと思います。

と、こういった書き出しをしてしまうと、まるでこの映画が荘厳で、重々しい空気を持った作品に思えてしまうかもしれませんが。

そんなことはありません。

作品の雰囲気は、そこまで重々しいものではありません。確かに障害者×性風俗という組み合わせではどうしても「重い」ところや、「社会の暗い面」に焦点を当てざるをえないところがありますが、必要以上に重い空気にしているというわけではありません。むしろ、作品としてはかなり「淡々としている」印象を覚えることだと思います。

また、作品自体の完成度を考えると、これが、いい出来かというと……う、うーん……これもまた疑問の余地があります。しかし、見るべきものであるのもまた事実なのです。

特に映画の前半で、かなりドキュメンタリーに近いタッチで描かれる、デリヘルシーンは、障害者の性事情について、とても大きな実感を持たせてくれることでしょう。「この社会は、障害者にもう十分優しいのだ」などという自分勝手な妄想を世の中に撒き散らしている人たちの言説なんて嘘八百であることがよく分かると思います。

そして、この映画は決して「障害者はかわいそうだから特別に扱え」と言っているわけでもありません。また、障害者は素晴らしい人格の持ち主、ということを言っているわけでもありません。ただただ、ありのままの現実として「障害者の性事情というものはこういうものである」ということを描いています。(少なくとも、前半のみは)とても、描き方がフェアネスなのです。だからこそ、この映画の前半は見るべきだと思います。

ただ、この映画、後半からは少しドキュメンタリータッチから話が外れて、「物語」らしい「物語」を描くようになるのですが、この物語というのがイマイチ……正直、背中が痒くなるほど、”どっかで見たベタな青春映画”になってしまっていて、後半はそんなに面白くなかったりもするのが弱点なのですが。

元々、NHKでドキュメンタリーとして製作するつもりで、それが駄目になったので、映画にしたとのことですが。ならば、劇映画にしないで、ドキュメンタリー映画にしたほうがよほど良かったのではないでしょうか、と思ってしまうほどです。

また、この映画、このタイトルもどうなのでしょうか。「暗闇から手をのばせ」このタイトルにした意味があんまりないです。意味合いとしては「障害者も、塞ぎ込まないで、外へ出て行かなければ」といった意味合いを含ませてこのタイトルなのでしょうが、映画中に「暗闇」も「手を伸ばすシーン」もないのは、どうなのかなと思います。

ただ、前半のドキュメンタリータッチのところは、本当に傑作級の出来だとも思いますので、ぜひ見てください。

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