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儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

変則映画評論:劇場版モーレツ宇宙海賊で、茉莉香は一体なにと戦っていたのか?

変則的記事

 劇場版モーレツ宇宙海賊は、このブログでも、感想を書いた記事の通り、エンターテイメントに徹した佐藤竜雄監督の全力が見える傑作でした。ですが、同時にこの映画、ネット上でもたまに見かけましたが非難点として「敵が何を狙っているのかよく分からない」という非難があります。

 確かに。

 劇場版モーレツ宇宙海賊は、明らかに分かりやすいエンターテイメント作品でありながら、その一点について、非常にぼかしている描写の多かったかもしれません。敵は、海王星系の様々な企業の影に存在している巨大コングロマリットイグドラシル」であり、彼ら「イグドラシル」が一体なぜ、無限彼方を、かつ、無限博士の発明を奪おうとしていたのかそこの説明が決定的に欠けています。

 挙句に、終盤、敵に雇われたエージェントでさえ、「自分たちを雇った者がなんのためにこんなものを狙っているのかなんて分からない」と言い切ってしまいます。これは、さすがに戸惑う観客も居たことだと思います。

 映画公開後のインタビューでも、監督は「イグドラシルがなにを狙っていたのか」についてはあまり言及していない事が多く、この事実から「理由を作っていないご都合主義で敵が作られたのだ」と考えてしまう人がいることでしょう。

 ですが、実はこの「イグドラシル」。ちょっとした知識があれば「一体何を狙って行動していたのか」はだいたい察しがつくようになっています。

 その知識とは、経済学の知識です。

 そう。実は、劇場版モーレツ宇宙海賊は、極めて「経済的な話をしている」珍しいアニメ映画なのです。この評論では、その経済的な話から「劇場版モーレツ宇宙海賊における、ユグドラシルとは一体どういった存在であるのか」そして、「そこから劇場版モーレツ宇宙海賊の無限彼方・加藤茉莉香たちは一体なにと戦っていたのか」を明確にしていきます。

 

題して「劇場版モーレツ宇宙海賊で、茉莉香は一体なにと戦っていたのか?」

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劇場版モーレツ宇宙海賊で、茉莉香は一体なにと戦っていたのか?

 

「知らないわ。私はただの便利屋よ。イグドラシル・グループの偉い誰かに雇われただけ。……ただ、興味があっただけ。あの人が、無限博士が亜空間のその向こうに求めるもの」

 

 これは劇場版モーレツ宇宙海賊の終盤、敵のエージェント・スカーレット・サイファが発する台詞です。この台詞には、スカーレットが決して、ただ無限博士の遺産が欲しいという理由だけで行動していたわけではないことを、暗に示している台詞なのですが、それと同時に、観客を混乱に陥れる台詞でもありました。この台詞は、敵の目的がハッキリと示すつもりがないことを明言してるようなものだからです。

 劇場版モーレツ宇宙海賊で、登場する敵は前述しましたが、コングロマリットイグドラシル・グループ」です。コングロマリットとは、まったく関連性が存在しない分野の会社が参入している企業体のことを指します。劇中のイグドラシルは、総合株式保有と業務提携によって成り立っている状態のようで、いわゆるコングロマリットの定義からは、少しズレるかもしれませんが、「いろんな企業がくっついているグループ」という意味で、劇中ではコングロマリットと呼ばれているのでしょう。

 劇中における彼らの悪事は、分かりやすく、他の業者が航行中の亜空間航路を攻撃し、不安定な状態にさせることで、営業を妨害するという内容でした。なぜ、そんなことをやっているのかというと、これまた理由が分かりやすく、自分の企業体に参入している運輸会社の利益を上げるために、同業者を亜空間航路から締め出そうとしていたからです。

 これは言ってしまえば、亜空間航路を使った運輸市場を、イグドラシルのみで独占/寡占するためということです。市場を独占/寡占してしまえば企業は、他業者が存在していないために、価格をかなり自由に釣り上げることが可能になります。他の業者が居れば、値段が上がったら「他の業者に頼めばいい」ということになりますが、その他の業者がほとんど居ない、居てもちゃんと運輸してくれるかどうかが頼りない状況だと、客は他の業者に頼めず、結果、仕方なく値上がりを受け入れるしかないからです。

 この状態になれば、かなりの利益を生み出すことになるのが明白です。「イグドラシル」はそれを狙って、あのような悪事を行っていた、と経済的には考えられます。

 そうです。イグドラシルは「市場の独占」を狙っている企業体なのです。

 

「仮に亜空間航路(の妨害)を俺たちが見た潜航艇が引き起こしているとすれば、イグドラシル系列の輸送会社は大儲け。当然、系列の旅行観光会社、燃料補給の会社だって儲かるし、最終的には他のイグドラシル系列に行く仕組みだ」

 

 これは劇中において、百目が、イグドラシルが行っている劇中の行動の"利益"を簡潔に解説している台詞ですが、この台詞にも、イグドラシルが、自らのコングロマリットに属する企業のみで「市場を独占/寡占」し、自らのコングロマリット自体の大きな利益にしようとしている、というのが伺えます。こういった、身内関係のみで、収益を上げていこうという姿勢はクローニー資本主義的とも言えます。

「市場の独占」と言うと、少し、しっくりこないかもしれません。「そんな程度のこと?」と思う人もいるかもしれませんが、市場の独占というのは、実は結構な悪徳行為です。なぜなら、独占は間接的に人々を支配することさえ可能になるからです。現に、上述のような、客を泣き寝入りさせるような値上げも、一種の支配と言えるでしょう。

 亜空間航路を経済的に支配しようとしていたのが「イグドラシル」なのです。 

 

 さて、亜空間航路を経済的に支配しようとしている、とここまで言えば、「なぜ、無限博士の遺物をイグドラシルが欲しがっていたのか」についても、おおかたの予想がつくのではないでしょうか。無限博士の遺物は、劇中終盤、無限彼方がそうしたように亜空間のXポイントを刺激し、亜空間航路を活性化、新しい航路をいくつも生み出すことが出来るものでした。かつ、劇中の描写でもある通り、おそらく、モーレツ宇宙海賊の作品世界で、最も深い深度の亜空間まで潜ることが出来る潜水艇*1でもあります。

 亜空間航路を独占しようとしている企業からしたら、そんな潜水艇、目の上のたんこぶ以外の何者でもありません。単純な話、あまり亜空間航路が増えすぎると、そう簡単に亜空間航路市場を独占することができなくなります。「イグドラシル」は亜空間航路をフラウウェンの子機で他の宇宙船を攻撃したり、亜空間航路に不調を起こしたりする、というかなり強引な力技で同業者を妨害していました。こんなことが出来るのは、一重に亜空間航路自体が少ないからだ、と言えます。航路の多い状態で使えば、明らかにこの力技は手間です。亜空間航路で同業者を妨害する費用が独占/寡占する利益を上回ってしまう可能性もあります。それを防ごうとして、潜水艇を欲したというのは、十分ありえる考え方です。

 あるいは、無限博士の遺物は、最も深い深度まで潜行できるので、単純に遺物を回収し、解析することで、より深い深度の亜空間の独占を狙ったのかもしれません。その深度には、無限博士の遺物しかたどり着けないのですから、遺物の量産を「イグドラシル」内だけで行えば、それこそ、本当にまったく手間を掛けずに、より深い深度の亜空間を独占することが可能になります。イグドラシルが、無限博士の遺物ほどではないものの、かなりの深度まで潜行できる潜水艇をいくつか所持していたことから、こちらの考え方も採用できます。

 ひょっとすると、両方の理由から潜水艇を回収しようとしていたのかもしれませんが、どれにせよ、「イグドラシル」が潜水艇を狙ったのも、やはり独占のためというのが、だいたいだと思われます。

 どちらも行動原理が「独占のため」だなんて、ちょっと行動原理としてはどうなのかと思われた方もいらっしゃるかもしれません。敵の行動原理としてはあまりにも、単純すぎるのではないか、と。ですが、何度も書いていますが、敵は敵でも、この作品の敵は企業体なのです。ここがとても重要なポイントです。ゆえに、行動原理が普通の敵からすると、異質なものになるのは当然なのです。

 企業と呼ばれるものは、基本的に末端の社員も含めて「自分の企業体の利益優先」で動いているものです。("基本的に"なので、例外ももちろんあります)そして、その自社の利益を最大化出来る、現実的な方法が「独占/寡占」であるかぎり、むしろ、企業・会社と呼ばれるものが暴走したとき、独占を目的としないでいるほうが、遥かに不自然なのです。

 現に、ネット上にかぎらず、現実社会でも企業がなんとか市場を独占/寡占しようと、談合したり、共謀したり、他社を潰しにかかったり、顧客の囲い込みをしようとしたりする光景はよく見かけます。どこの会社とは言いませんが、最近は、各国の政府に問題視されつつある、ネット通販会社などもこの独占/寡占を狙っているように見えます。

 実際、日本でも起きている現象でしょう。ぼかして言いますが、地方に、大企業の巨大商店某ナントカが突然参入してきたせいで、その地域の小さい商店が次々潰れて商店街が閑古鳥なんてのも、一種の小さい範囲での独占といえます。巨大商店某ナントカは、業務提携という形で各々の企業と手を結んでいますが、まさに劇中のイグドラシルと同じことです。

 

 そういった「独占し、周りを潰そうとする巨大なナニカ」と加藤茉莉香は戦っていたのです。海賊船・弁天丸は、政府に私掠船免状を頂いており、半軍属のような扱いではあるのですが、基本的に、保険組合から顧客の依頼を貰って仕事をしている委託業務で、これは言ってしまえば、個人商店などの自営業に近い業務形態と言えるでしょう。

 これは先ほどの喩えにそって言うならば、商店街の一商店が、巨大商店某ナントカの経済的陰謀を阻止しようとしている、ということです。

 これからの世の中では、こういった、経済的な支配の方がますます勢いづいていくと思います。経済的支配は、一見すると良いことなのか悪いことなのか、分かりにくく、かつ、支配していても気づかれにくいからです。今までの支配とは違って、この手の支配は、法律で取り締まっても、下手な条文での取り締まりは、中途半端な効果――あるいは効果がない可能性さえあり、その上、確実に利益を上げることが出来ます。

 そんな、”高度化した社会において発生しうる支配”に立ち向かっていくというのは、まさに、自由を愛する、"高度社会での海賊"と呼ぶに相応しいでしょう。

 

 監督・脚本を手がける佐藤竜雄氏がここまで考えていたかどうかは分かりませんが、偶然にも、この映画はそういった物語であることを示しているのです。

 

*1:見た目がまったく船ではなく”潜水艇というよりもでっかい潜水服”という台詞もあるような代物なんですが、一応、劇中の説明を重視して潜水艇と呼んでいます

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