映画感想:プリデスティネーション
※いつもよりも、ネタバレ気味に感想を書いています。
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恒例の手短な感想から。
原作よりも、ちゃんと面白かった。
といったところでしょうか。
プリデスティネーションというこの映画ですが、公式サイトにもあるとおり、原作はロバート・A・ハインラインの「輪廻の蛇」が元になっています。輪廻の蛇がどういう話かはネタバレになってしまうので、詳しく言えないのですが――端的に言って、「アイディア重視の一発ネタ」のSF短編というのが相応しいでしょう。ちょっと(少なくとも執筆された当時では)普通、考えつかないような、驚きのタイム・パラドックスが書かれていた短編でした。
それを映画化したものがこれになるのです。
正直に言いましょう。原作より、ずっとこの映画の方が面白いです。
ハッキリ言いますが、原作はアイディアを重視しすぎるあまり(また、短編ネタということもあってか)最後まで読み終わってから「……で?」と言いたくなってしまうところがあるのも否めないのです。SFだけが好きな人ならば、それだけで納得できるかもしれませんが、僕のようにSF”も”読む読者からすると、微妙な感想しか出てこないシロモノでもありました。
唯一、アイディア以外で、面白いのは「よくよく考えたら主要登場人物が全員、主人公(ネタバレのため文字を白くしています)という、ちょっとセカイ系的というか、シュールレアリスティックな状況」が描かれていることくらいでしょうか。詳しいSFファンからすると、もっと違う評価があるのかもしれませんが、少なくとも、僕は、原作の短編に対してそういう評価をしています。
そんな僕であっても、この映画は非常に面白く鑑賞することが出来ました。特に何が素晴らしいかというと、前述した主要登場人物、全員主人公という状況をより強調し、その状況に含まれていた人間の、ある心理や哲学などを引き出していることです。
この映画の主人公は、自分の容姿が嫌いな人間です。ちゃんと鏡を見られなかったというところからも、それは強く描かれています。こういった、極端に自分を嫌ってしまう人間というのは、その実、自分のことが好きすぎるから嫌ってしまっていることがあります。
これは僕自身が、そういった面を持つ人間であるからよく分かります。自分の容姿に自信が持てない。自分に自信が持てない。これは、極限までに自分の事が好きだからこそ、起こる心理なのです。自分のことが好きすぎて「自分がなによりも素晴らしい存在でないと納得出来ない」ために、素晴らしい存在ではない自分を嫌ってしまっているのです。
自分が嫌いな人は、この世の誰よりも、自分のことが好きすぎるのです。自分に対して、普通の反応をすることができないのです。
この究極的に矛盾したナルシズムが、この映画では、ほぼ完璧な形で描かれています。
あの短編の中に含まれていた様々な哲学のうち、そこを綺麗に引き出しているという、これだけでこの映画は立派なものであると言えます。