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儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

雑記:誤訳という地獄

 今回はちょっとだけ主旨を変えて、映画に関する「翻訳」の話をしたいかなと思います。翻訳――これを取り巻く問題はとても多いです。だいたい、外国映画には、憑き物のように誤訳が付き纏っているものです。

 有名なところでいえば、戸田奈津子氏が手がけた数々の一般教養のレベルが疑われるような翻訳間違いの数々…いえ、実のところ、戸田奈津子氏に限らず、それ以外の翻訳家でも「そもそも、日本語としておかしい」とか「文章がおかしい」とかそういうレベルの翻訳をしてしまった人は多く存在しています。

 また、そういう日本語が疑わしいレベルでなくても、「映画の内容を考えた場合、本来訳さなければいけないはずの単語を訳してない」だとか、「細かい単語は訳せてるけど、全体の文章の意味が、原文と正反対になってしまっている」だとか、「超訳しすぎて、原文の印象と全く違う」とか、そういう誤訳も数多く存在しています。

 君の瞳に乾杯――なんてのも、超訳しすぎた翻訳ですね。あのセリフ、原文だと、相手の女の人を「子供扱い」してるような意味合いなので。(原文:Here's looking at you, "Kid!"

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 で、そんな超訳の翻訳文にこんなものがあったりします。

「何の取り柄もなく 人に好かれないなら死んでしまえ
悪い事は言わない 生きたところで負け犬
死ねば音楽ぐらいは残る お前が死ねばみんな喜ぶ
だらだらといつまでも生き続けるより 思い切りよく燃え尽きよう」

  これはファントム・オブ・パラダイスのエンドロールで流れる歌「The Hell of it」の字幕で使われている翻訳です。この翻訳、とあるサブカル系の漫画家が好きだったらしく、その人が自殺した後の、葬式のとき引用されたりしたらしいのですが、でも、この「The Hell of it」、原文はこうなってるんですよね。

Good for nothin' bad in bed nobody likes you and you're better off dead goodbye
We've all come to say goodbye goodbye
Born defeated died in vain
Super destruction you were hooked on pain and tho' your music lingers on
All of us are glad you're gone
If I could live my life half as worthlessly as you
I'm convinced that I'd wind up burning too 

  おそらく英語に詳しい人たちは(いや、実のところ、僕のようなちょっとしか英語が分からないような、文法さえ怪しい理解のような人たちでも)「この翻訳は相当おかしい」と思うはずです。パッと見ただけでも、明らかにおかしいのです。

 そう、実はこの"翻訳”は――何もかもが間違っている誤訳なのです。

 

 とくに酷いのは「>だらだらといつまでも生き続けるより 思い切りよく燃え尽きよう」の部分です。おそらくは、この翻訳が愛された理由もこの文章にあるように思うのですが、同時にここが一番酷い訳文です。ハッキリ言って、翻訳者が勝手に文章を創作したと言って差し支え無いです。

 訳文に対応する(文章の内容が違いすぎて、ほとんど対応してないのですが)原文は「If I could live my life half as worthlessly as you.I'm convinced that I'd wind up burning too.」なのですが、まず、この文章には「>だらだらといつまでも生き続けるより」なんて言ってる部分がどこにも存在していません。

 その代わり「If=もし I could=僕が live=生きたとしたら my life=僕の人生を half as worthlessly as you=お前の半分くらいの最悪の」――「もし、僕がお前の人生にある”最悪さ”の半分くらいの人生を生きたとしたら」とは言っていますが。

 そして「>思い切りよく燃え尽きよう」の部分は「I'm convinced=確信 that I'd wind up=終わらせる burning too=燃やすことによって.」――「僕は焼身自殺することを確信している」です。

 つまり、この文章全体の意味は「もし、半分でもお前みたいな酷い人生を生きちゃったら、俺、絶対焼身自殺するわ―」という意味になります。

 

 そう、この原文「燃え尽きよう」などという勇ましい文章ではないのです。それどころか、「お前、そんな酷い人生なのに、よく焼身自殺しないで生きてられるよね。俺には無理だわー。半分でも無理。いやーよく生きてるよねー」と皮肉げに、”お前”の人生を罵っている一文なのです。

 

 実はこの文章、全体的に、そういう方向性で訳すのが正しく、例えば「死ねば音楽ぐらいは残る お前が死ねばみんな喜ぶ」の部分――「Super destruction you were hooked on pain and tho' your music lingers on.All of us are glad you're gone」は、「お前が死ぬとき、苦痛の断末魔とか、そういう”お前の音楽”が響くんだろうね。みんな、君が死ぬのが楽しみだよ」といった具合で訳すべきです。*1

 *2

  

 こういう誤訳を真に受けてしまう人々を見ていると僕は「あぁ、勉強って大事だな」「調べるって大事だな」と思うのです。調べないばかりに、とんでもない誤解を抱えたまま、無下に死んでしまうことさえあるのですから。

 

 いやー、ホント、勉強って大事ですね。

*1:これも少し超訳のきらいはありますが……

*2:ちなみに、「悪い事は言わない 生きたところで負け犬」の部分は、原文にまったくそういう文章が跡形も存在していないので、訳者の勝手な思い込みで書いている文章と考えるのが妥当でしょう。

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