儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:ミラクル・ニール!


映画『ミラクル・ニール!』予告編

恒例の手短な感想から

素晴らしい!!

といったところでしょうか。

 

 モンティ・パイソンのテリー・ジョーンズが監督し、しかも、パイソンズまで揃いも揃って声優として出演した上に、主演はサイモン・ペッグ――こう聞いてしまえば、モンティ・パイソンが好きな人ならば観に行かないわけがないです。

 間違いなく、今年の注目作の一つであったであろう「ミラクル・ニール!」ですが、相当に期待して観に行ってもまったく大丈夫です。裏切られることはありません。

 それくらいに、しっかりとした面白いコメディ映画となっていました。某新聞でも、「ベタな喜劇」なんてふうに評されていて――ベタな喜劇…? あれ、おかしいですね。この映画は、ベタな喜劇に見せかけてはいますが……しかし……まあ、そこらへんは、後述しましょう。

 

 この映画は結構、パイソンズが好きでない人でもオススメできる内容であるといえます。モンティ・パイソンのコメディは、ヘタすれば、アクが強すぎて人によっては受け付けられないこともあるかと思いますが、この映画のコメディは、そこまでアクの強いものではありません。

 もちろん、モンティ・パイソンらしい、非常に際どいジョークもさり気なく入れてあったりしますが。それとは別に、分かりやすいギャグも多く入れられているのです。映画館でも、それこそ、モンティ・パイソンなんてまったく分からないような人でも、普通に楽しんでいました。

 

 この映画の笑いの面白さは、異様なほどの荒唐無稽さと、荒唐無稽さに反するほどの異様な生真面目さに、起因しています。とにかく、物語の始まりはとても荒唐無稽なのです。それは「銀河ヒッチハイクガイド的な荒唐無稽さなんだ」と言えば、理解してくれる人もいるのではないかと思います。

 ですが、単に全てが無茶苦茶で荒唐無稽なわけではなく、妙に生真面目なところもあるのです。「主人公が、全能の力を持つようになった、なんでも叶えられるようになった――そういう力を使うとどうなるのか」ということを、非常に真面目に考えているのです。

 そして、変に真面目だからこそ、妙に笑えるシチュエーションが出来上がってしまう、というのが、この映画の面白さでしょう。

 日本で例えるならば、藤子不二雄的な面白さと言ってもいいかもしれません。実は、モンティ・パイソンの映画というよりは、そちらの、藤子不二雄のギャグ漫画にあるような感じが、よく描かれている印象も強いです。

 

 いずれにしろ、モンティ・パイソンなんて知らなくても、この映画は結構面白いと思うので、変に「監督:テリー・ジョーンズ」とか、そういう看板を気にせずに観に行っても良いのかなと思います。

 それくらい、極めて、エンターテイメントとしてよく作られている映画なのです。

 

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 さて、ここまでコメディ映画として、エンターテイメントとして、この映画は極めて面白いという話をしてきましたが――実は、この映画はそこだけに留まっている映画ではないという話をしたいと思います。

 実は、この映画、明らかにある映画がオマージュされています。それは「アイズ・ワイド・シャット」です。スタンリー・キューブリックの最後の遺作である、その作品を連想せざるをえない、明らかに意識していると考えざるをえない要素が、実はアチラコチラに散りばめられています。

 ちなみに、アイズ・ワイド・シャットは、コメディ映画でもなければ、エンターテイメント映画でもありません。鑑賞していただければ分かると思いますが、そこそこ、難解な映画です。しかし、そんな映画を「ミラクル・ニール!」はオマージュしているのです。

 例えば、冒頭、主人公が自分が執筆した小説が評価されるという夢を見ますが、この小説のタイトルが明らかにアイズ・ワイド・シャットを意識した「目を閉じる*1」タイトルになっています。

 また、その後、本作のヒロインである、ケイト・ベッキンセールが、今度は夢のなかではない現実の世界にある「目を開ける」タイトルの著者のインタビューを見るシーンがあるのですが…。ここでインタビュワーに対して著者が語った、当該の本を執筆した理由、これが「別居状態にある妻のために書いた」と言ってもいるのです。

 これ、スタンリー・キューブリックの「アイズ・ワイド・シャット」も同じような理由で作られているんです。

 しかも、途中、ヒロインのケイト・ベッキンセールをストーカーしているアメリカの陸軍大佐――彼は途中の言動から、実はケイト・ベッキンセールが浮気していたのではないかと疑ってストーカーしていた*2ことが分かるのですが、アイズ・ワイド・シャットは、逆に主人公が、妻と軍人が浮気してるんじゃないかと疑っている話なのです。

 以上のことから分かるように、この映画は、明らかにアイズ・ワイド・シャットを意識して作っている映画なのです。

 

 なぜ、このようなことをしているのか。正直、自分でも片手間で調べただけではハッキリと分かりませんでした。

 が、とりあえず間違いなく言えるのは、 アイズ・ワイド・シャットは、キューブリックが、かつての自分の妻に酷いことばかりしてきたのを後悔していて、そして、その妻が「これを映画化して欲しい」と言っていたから、贖罪として映画化したものだ、ということです。

 そして、どうやら、監督のテリー・ジョーンズは「オープン・マリッジ*3」の状態で、前妻と結婚していたのですが、その後、結婚している最中に、(オープンマリッジなので)だいぶ年下の現在の奥さんと恋に落ちて、彼女と結婚するために、前妻と離婚することになったという話があったようです。

 

 つまり、どうも、合わせて考えてると、この映画はテリー・ジョーンズの前妻との離婚付近にあった話を、”SF的な寓話”として描いているようなのです。事実、映画の冒頭にある歌は、あのような歌詞であるわけですし……。調べがついていないので、断言はできませんが。

 もちろん、この映画の主題は、それだけではないと思いますが、このように実は「ミラクル・ニール!」は、ベタな喜劇映画とは言い切れない面があるのです。確かに笑える映画です。しかし、実は、その中に何かが入っている映画なのです。そのことも含めて、非常に面白く興味深い映画でした。

*1:

詳しい、タイトルは失念しました。すみません

*2:そもそも、彼がケイト・ベッキンセールと婚約していると思い込んでいるだけなのですが

*3:1970年代に唱えられた結婚の概念で、結婚はするけれども、互いに別の人と恋をしてもいいし、性行為を行ってもいい、という状態の結婚のこと。正直、この概念自体は「いかにも、その時代らしい考え方だなー」としか言えない概念なので、そういうものなんだと納得してください。納得できなくても

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