儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

雑記:ねぇ、メグ・ライアン。それは無謀な気がするんだけれども…。

 自分は映画だけが好きというわけではなく、将棋だとか、アニメだとか、漫画だとか、音楽だとか、最近の人らしく様々な方向に興味を持っていて、そして、様々な方向のことに詳しかったりするわけですが、そんな僕は、最近映画関連のニュースでひっくり返りそうになる思いをしました。

 あまりにも驚いたので、雑記として簡単な記事を書くことにしました。

 ひょっとすると他の方には大した内容ではないかもしれませんが、これ、個人的には大した問題なのです。

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 で、問題のニュースはこちら。

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 メグ・ライアンがなんと監督デビューする、という話なのですが、その監督デビュー作で挙げている作品名を見て、ひっくり返りそうになりました。なにせ、ウィリアム・サローヤンの「ヒューマン・コメディ」だったわけですから。

 自分は、去年くらいからとある本(心は高原に (ショート・ストーリーズ))を読んでから、その独特なコメディタッチの面白さに現代でも通じるものを感じ、サローヤンの本を定期的に読み漁るようにしていたのですが、この記事を見たときに、偶然にも手元に件の「ヒューマン・コメディ」を持っていまして「え、これ、映画化するつもりなの?!」と非常に驚いたわけです。

 

 もちろん、驚いたというのは二重の意味で言っています。片や、偶然にも程があるという意味で。片や、無謀にも程があるという意味です。

 なぜ無謀と言い切れるのか。幾つか理由がありますが、大きな理由の一つはメグ・ライアンが、挙げている「ヒューマン・コメディ」は一回既に映画化されているからです。それも、クラレンス・ブラウンの手によって。

 クラレンス・ブラウン。現代では、おそらく「子鹿物語」の監督と言えば分かってくれる人も多いのではないでしょうか。もちろん、手腕的に天才的とかそういうことではありませんが――と言って、腕がないというわけでもない、確かな映画技術を持っている映画監督です。

 ヒューマンコメディは、彼が既に「町の人気者」という邦題の映画として映画化しています。そう、この時点で確定しているのは「メグ・ライアンは、なんと監督初挑戦にしてクラレンス・ブラウンに挑むつもり」ということです。どうやっても、ヒューマンコメディを映画化すればクラレンス・ブラウンの該当作と比較されるのは必至です。

 …どうです? 無謀でしょう?

 いくらなんでも、それはないと思います。

 

 更に、もう一つ理由があります。そもそもの問題としてヒューマンコメディは想像以上に映画化するのが難しい原作だということです。

 このヒューマンコメディ、実は映画化するためにサローヤンが書いた脚本を、サローヤンが改稿するという過程を経て出来上がった小説なので、一見すると映画化は簡単そうに見えるのですが、いやいや、これが実は現代的な視点で見てしまうとこの映画は、非常に映画化が難しい一作になっているのです。

 まず、このヒューマンコメディ、基本的に話に大きな起伏等はありません。これはサローヤンの作家性でもあるのですが、言ってしまえば、サローヤンは現代で言うところの「日常系」とでも呼ばれるような内容の作品を多く生み出しており、この「ヒューマンコメディ」もまたその作品の一つだからです。

 知っている人は誰でも分かると思いますが、日常系は本当に監督の手腕が問われるジャンルです。監督が下手だと、ただのつまらない話になります。相当に手腕がないと無理なものなのです。

 そして、もう一つ言ってしまうと、この小説。結構、サローヤン本人が後悔するような部分もある小説だったりもするのです。これは「ヒューマンコメディ」の訳者あとがきでも書いてありますが、結構「ヒューマンコメディ」は、その懐かしい日常系の雰囲気のわりに戦争に関して過度に感傷的な描写が多く、それが結構全体的な出来としてはアンバランスなことになっていたりするのです。

 サローヤン本人もそこをかなり気にしている小説です。ちなみに、前述した「町の人気者」は、このバランスに完全に失敗していて「戦争への感傷的な描写を更に感傷的にしてしまう」という失態を犯しており、正直、本来のサローヤンの魅力自体が損なわれている面が見受けられたりもします。

 そう、端的に行って、クラレンス・ブラウンもあんまり上手く映画化できていないのです。この「ヒューマンコメディ」は。 

 

 で、それに初監督で挑もうというのは…やはり、無謀と言わざるをえません。

 

 

 以上、二重の意味で「大丈夫か」と思ったメグ・ライアンのニュースでした。いやー、正直、サローヤンの小説がとても好きな僕としては、やめてほしい…という本音が漏れそうになるニュースですね。*1

*1:うっかり、書き忘れていました。引用したニュース記事にもあるとおり、実のところ、もう既に映画は完成していて、向こうでは公開も済んでいたりします。あとは日本公開がどうなるかというところです。マジか。

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