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儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:無垢の祈り


[Innocent prayer ]Movie Trailer#1.1「無垢の祈り」予告篇#1.1

恒例の手短な感想から

うーん……評価に困るなぁ……

といったところでしょうか。

 

 『無垢の祈り』という映画は、一部の映画ファンをだいぶヤキモキさせた映画でした。平山夢明の同名短編小説を原作としているこの映画は、2015年に完成した後、公開してくれる映画館がまったく決まらなかったのです。せっかく商業監督が、自主制作で作り上げた映画だというのに、後悔しないまま、お蔵入りになるかもしれないとも囁かれていました。

 

 なぜ、そのような事態に陥っていたかというと……一言で言って「原作が平山夢明だったから」です。

 

 平山夢明とは、一部ではそれは有名なホラー作家であり、ミステリー作家です。どう有名なのかと言えば、その内容のあまりの苛烈さで有名なのです。

 残酷描写や汚物描写が、所狭しと並び、その一つ一つが異様にリアルで気味が悪いという、トンデモナイ作家が平山夢明なのです。

 彼の著作には、内容自体が、どろっとした血の泥を背中に流し込まれるような不快感、不穏さ、不安感、幻惑感を読者に叩き込んでくる小説も多く――例えば、「片足が義足である障害者の女性が、突然自宅に押しかけてきた、頭のおかしいプロレス野郎どもに、理由もなく、次々拷問のようにプロレス技をかけられて体の部位をもぎ取られて殺される話」などという、いろいろと酷すぎる話があったりする小説家なのです。*1

 そんな人の著作を、実直に映画化してしまったら、どうなることか。

 想像に容易いと思いますが、本作、内容がかなり苛烈なことになっています。そのせいで、この映画は公開を危ぶまれていたのです。倫理から考えても酷薄な内容の映画を、公開したがる映画館がなかったのです。

 

 と、まあ、上記のような事情があり、非常に公開が危ぶまれていた本作ですが、個人的には非常に見たかった一作でした。なにせ、自分は、本当にコアな人ほどではないまでも、それなりに平山夢明の新作が出れば買って読み漁ってしまうくらいには、彼の著作が大好きだからです。

 確かに残酷描写や汚物描写、及び下町の廃れた描写に関しては不快になるほどの強烈さを持つ作家ですが、同時に悪夢かと思うほどの奇天烈なアイディアや、シーンの数々、残酷描写からふとやってくる感動的な展開など、ただ残酷なだけではない奥深さのある内容に、かなりヤラれてしまっていまして…。

 

 そういうこともあって、非常に映画化されるという話を聞いたときから、見たくて仕方なかったのです。10月14日までの短い上映期間ですが、なんとしても見たいと。

 そうして、期待に期待を重ねて観に行った本作ですが……。

 う、うーん……。

 

 いえ、本作の全てがダメだと言うつもりはありません。かなり、原作の――というよりも、平山夢明の――テイストを上手に引き出している部分もあり、ラストの改変も悪くないと思っています。*2

 平山夢明という作家は、例えば腕を引きちぎられる場面を、読んだ読者が本当に自分の腕が引きちぎられたのではないかと錯覚を覚えさせるほどに、リアリティある描写の上手い人なのですが、同時にそこはかとなく、作品に常にシュルレアリスティックな雰囲気が漂っている作家でもあります。非常に抽象的な場面も多いのです。

 なので、リアル一辺倒な描き方では決して映像化の出来ない作風の作家とも言えるでしょう。本作も、そこに気づいていて、抽象的と言わざるをえないある”仕掛け”が映画に施されています。

 この"仕掛け"は、この映画において最も成功した部分でしょう。おそらく、初めて「とある人に見立てられたアレ」を見た瞬間、観客はギョッとさせられるはずです。同時に、否が応にも、従うしかないその人物の境遇をよく象徴してもいて……だからこそ、ああいうオチになってしまうんだ……という説得力の補強にもなっており、いろんな効果を映画に与えています。絵面としても、ある種、ヤン・シュワンクマイエル的なセンスに近いものを感じられて素晴らしいのです。

 

 そういうところは良いのですが……。

 

 如何せん、どうにもこの映画は、あちこちで監督の力量不足が見え隠れしています。例えば、初めて耳を見つけるシーンは……これはちょっと、無駄に尺を水増ししているようにしか見えないでしょう。主人公が、長回しのカメラであんな歩きまわる意味って一体……? せめて、一瞬でも良いから、観客に「あれ、あそこに、なんかあるぞ…? なんだあれは…?」と思わせるようなカメラワークを入れるべきでしょう。それだけでも、だいぶ変わったはずです。

 このように、この映画は、なんだか無意味に映しているシーンが多すぎるんです。暗い絶望的な日常の描写のために入れているにしても入れすぎですし、水増ししているような印象もあって、結構、中盤は苦痛です。

 他にも、原作者の平山夢明氏が、カメオ的に出演しているシーンがあるのですが……これも困ったものです。いえ、自分としては、確かに平山夢明氏が動き回っている姿を見るのは好きなのです。とはいえ、出すタイミングがおかしすぎでしょう。正直、平山夢明氏が出てくると、ちょっと笑いそうになってしまうので、このタイミングで出すのは、やめてほしいです。

 あと、ちょいちょい説明的なセリフが気になります。しかも、言ってることが結構陳腐なのも「なんだかなぁ」と。

 

 そういうわけで、この映画は困るんですよね。手放しで褒めたいのですが、うーん、それは無理かなと。

*1:ちなみに、最近映画化された小野不由美の『残穢』。佐々木蔵之介が演じていた人物は、原作では、名前が平山夢明となっています。そうです。あの人です

*2:正直、個人的には、こういう場面があるメディアを鑑賞しすぎているせいでオチが読めてしまったのですが……まあ、それは、自分が特殊すぎるのでだいたいの人にとっては衝撃的なオチだと思います

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