儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:SING/シング


映画『SING/シング』 吹替版特別予告編

 恒例の手短な感想から

音楽映画として90点!話は荒い…でも、そこが良い!

 といったところでしょうか。

 

 イルミネーション・エンターテインメントといえば言わずと知れた「ミニオン」たちで有名なアニメーション製作会社です。

 今や、下手をすればディズニー/ピクサーよりも、メインターゲットである子どもに、絶大な人気を誇っているのではないかと思われる会社であり――このブログでも、直接、名前を出したことこそありませんが、数々のディズニー/ピクサー映画の感想記事の中で、常にそれとなくこの会社には触れてきました。

 実際、ディズニー・ピクサーの最近の妙な方針転換は、間違いなく、この会社の影響があってのことだからです。

 それくらい、ディズニー/ピクサーをおびやかす存在となりつつある同社ですが、そんな会社が音楽映画に挑戦するとあっては見ない訳にはいきません。ディズニーの十八番といえば、音楽です。

 そのお株を奪われてしまうとなると、本気で、これはイルミネーション・エンターテイメントの、そしてミニオンズの時代が来たと言わざるをえないからです。

 

 長めに前置きしましたが、――で、結論から言ってしまうと、

 これはイルミネーション・エンターテイメントの時代が来てますね……。

 

 そう納得せざるをえないほどに、非常によく出来ていました。

 少なくとも、音楽の見せ方("魅せ方")に関しては、かなりのレベルにあります。上手に歌と物語を交互に見せてストーリーを運びつつ、「ここぞ」というタイミングで、バッチリ臨場感のある、まさにダイナミックなシーンを持ってきたり等々の工夫によって、ただでさえ素晴らしい音楽に、更に映像的なマジックが足されています。

 登場人物が単に綺麗に踊って歌っているだけでは到底味わえない感慨が、この映画の音楽にはあります。

 個人的には「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼルに、この映画製作者たちの爪の垢を煎じて飲んでほしいくらいです。

 

 また、子供向け映画だと言うのに、この映画の音楽は、非常に幅に富んでいます。そこも素晴らしいのです。ロック系やら、R&B系やら、ジャズ系やら、とにかく分け隔てなく様々な音楽がこの作品には登場しますし、登場した上で「どういう音楽だから」といって馬鹿にされることも、映画上での扱いが悪くなることもないのです。

 たとえば、フランク・シナトラの「My way」を「古臭い」とかそんなふうに馬鹿にすることもなく、ただ「素晴らしい音楽」として扱っています。それと同等で、まさにイマドキなポップスソングも「素晴らしい音楽」として扱っているのです。

 そこも音楽映画として優秀なところで、まさに「大人も映画中の音楽を楽しめる」映画になっているのです。*1音楽映画としては、相当に高いクオリティであることは間違いないでしょう。

 

 そして、映画の話自体も悪くありません。もちろん、ある程度雑だったり、荒いところもあります。明らかにおかしいところもあるのです。

 ただ、正直、観客の誰も、そんな妙に細かいところの整合性を付けることを、子供向け映画に望んでいないのも事実なのです。むしろ、子供向け映画としては「いかに親子のスレ違い等を描写できるか」「子どもでも共感できるような設定を作れるか」が大事なわけです。

 そういう意味では、本作が「モアナ」よりも売れてしまうのは納得なのです。

 まず、本作、題材の選び方が上手いです。

 

 ようするにこの映画って、ここ数年、様々な国で流行っている「オーディション系の番組」を題材にしているわけでしょう。「オーディション系番組をモチーフに、子供向け映画で使えるような設定に仕立て直して、ちょっとした三題噺を加えて、どうだ!」という映画なわけです。

 実は、この時点で上手いのです。

 かつて、面白かった時期のクレヨンしんちゃん映画なんかは、毎年のように「世の中で流行ってるものを、クレしんテイストで落とし込んで、どうだ!」という映画ばかり作ってました。

 それと似たようなことをこの映画は、やっているのです。

 やはり、このような情報の氾濫した時代にあっても、みんな「なんか見たことあるな」という要素に食いつきやすいんです。特に子どもほど、そういうものには食いつきやすいです。妖怪ウォッチの異様な人気など、子どもが流行りものに食いつく光景は誰しも見覚えあることと思います。

 だからこそ、様々な国で流行っている「オーディション系の番組」を題材に持ってくる――この時点で「あぁ、コレは売れるな!」と納得できるのです。

 他にも、ラストのタイムラプス風な映像で、劇場を再建する様子を映しているシーンなど、この映画はかなり「流行り」を意識しており、なおかつ、それらを上手に取り入れています。

 

 そして、事あるごとに、大袈裟に進んでいく話も魅力的です。劇場が倒壊するときもただ、ガシャーンと倒壊するのではなく、ありえないと言いたくなるようなレベルの災害級の出来事が起こって全壊するのです。

 刑務所を脱出するときも鉄格子を曲げるのではなく、壁ごと破壊するのです。

 そうやって極端なレベルにしたほうが、見ている子どもたちは理解できるからです。

 

 そうです。この映画は、確かに様々な部分が荒いのだけれども、しかし、荒いからこそ良いのです。

*1:今、子供向け映画は「大人も楽しめる」ではなく「大人しか楽しめない」ものが多すぎですからね……

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