儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:ロープ/戦場の生命線


【映画 予告編】 ロープ/戦場の生命線

 恒例の手短な感想から

これが戦争なのか。

 といったところでしょうか。

 

 戦争映画というと、大抵の映画が戦場――それも決まったように最前線ばかりに目を向けられがちですが、当たり前のように、最前線だけが戦争の真実を映しているわけではありません。

 戦争の中にあっても日常は存在しており、死や残酷のみが存在するのではなく、その中には生活があり、経済があり、様々な人間模様があります。もちろん、そういった戦争の日常に焦点を合わせた作品たち――「町の人気者」「この世界の片隅で」など――も昔から存在しているのですが……いずれの作品も、そこまでは克明に戦争を描けていてはいなかったのかもしれません。

 

 そう思えてしまうほどの、戦争をテーマにしたコメディ作品が、存在していました。

 それが本作、「ロープ/戦場の生命線」です。

 

 本作は誰もが光を当てることがなかった「戦争のある側面」に初めて光を当てた作品と言えるでしょう。

 それは「停戦」という側面です。

 WW2やWW1時には存在しなかった――しかし、現実の、現代の戦争には必ずついて回っている大きな要素――「停戦」と「国連軍/NGO」の人たちに焦点を当てた、斬新な戦争映画が本作なのです。

 

 初めに断っておきますが、この映画には「戦争らしい描写」というものが一切存在していません。戦闘機が機関銃を放つことも、マシンガンが無残にも人を撃ち抜くことも、爆弾が人を粉微塵にしていくことも、一切起こらないのです。

 当たり前ですね。「停戦時」なんですから。1995年のボスニア・ヘルツェゴヴィナです。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の最末期――和平交渉が行われているような時期なのです。普通の感覚ならば「もう戦争は終わった」「もう平和になったんだ」と思ってしまうような、そんな時期の「戦争」の話です。血しぶきの一つも出てこないのが当たり前なのです。

 いえ、それ以前に、そもそもこの映画は主人公たちのNGO職員たちが、井戸に落ちた死体を引き上げるためのロープを探し回るだけの映画でしかありません。ただ、それだけの映画なのです。

 戦争後の復興のためにあちこちの集落へ行ってはトラブルを解決していくNGO職員が、いつものように、トラブルを解決していくだけの映画なのです。内容も、全体的にはブラックジョークを交えたコメディです。クスリと笑ってしまうようなギャグが出てくる映画なのです。

 

 

 しかし、この映画には、どの戦争映画よりもハッキリと明確に「戦争」があります。

 いえ、むしろ「銃弾が一つも出てこない内容」であるからこそ、本当の戦争が見えているのかもしれません。銃撃のうるさい音や、感傷的な死がないからこそ、そんな表層的に隠れた「戦争の姿」をよく暴き出しています。

 主人公たちの、道に落ちている牛の死骸を見ながら「どっちに地雷が埋められているのだろうか?」と悩む姿に、ただロープを買おうとするだけで店主から拒絶されてしまう姿に、子どもたちが何気なくハンドガンを持ち出してしまう姿に、すっかり人の居なくなった街の中でくだらないロープのジョークを語りだす姿に「これが戦争なのか」と実感出来るのです。

 その日常なのに、あまりにも日常とかけ離れた日常を生きている姿に、どうしようもなく戦争を実感してしまうのです。

 そして、今もなお「きっと紛争地域では、まだこういったことが起こっているのだろう」と誰に言われるでもなく、想像を巡らせてしまうのです。

 

 本作はそういった意味で、最も優れた戦争映画であるのかもしれません。

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