映画感想:シェイプ・オブ・ウォーター
恒例の手短な感想から
高尚なフランス映画を見るような…
といったところでしょうか。
特撮とそしてホラーの監督として辣腕を振るい、もはやコアな映画ファンでなくても名前を認知する人が多くなってきたであろう、ギレルモ・デル・トロ監督の最新作にして、アカデミー賞総舐め作品、それが本作、シェイプ・オブ・ウォーターです。
ギレルモ・デル・トロが幼い頃に見た特撮映画を基盤とした、オリジナル作品である本作の出来は一言でいってしまうと、「これ、ハリウッド映画って嘘でしょう?」としか言い様のないものになっております。良くも悪くも素晴らしくも、本作はまったくハリウッドらしさを感じない作品です。
元々、ギレルモ・デル・トロの監督作品は、全体的にハリウッド映画らしくない、象徴的なガジェットやシーンなどが挟まれがちで、なおかつ映画の雰囲気もゴス気味な気配を漂わせていることも多かったのですが……とはいえ、パシフィック・リムやヘルボーイなど「言っても、ハリウッド映画の監督」であったのが、ギレルモ・デル・トロでした。
話の盛り上げ方や演出の分かりやすさ、高尚な内容にしようとしてもイマイチなんだか高尚にならないところ含めて、良くも悪くもギレルモ・デル・トロは「欧州映画とハリウッド映画の合の子を作る監督」という領域を決して出ない監督でした。
しかし、本作は明確にそれが異なっています。
アカデミー賞であれだけ賞を取れたことが不思議なくらいに、本作はまったくハリウッドらしくない映画となっております。まず、なんといっても、話の筋書きが恐ろしくシンプルです。
この手の話のテンプレートをそのまま用いたような筋書きになっており、シンプルすぎて、あまり話に起伏がありませんし、先の読める展開しかやってこない内容となっています。ハッキリ言って退屈に感じる人が居てもおかしくないくらいに、シンプルすぎる筋書きです。
そして、そのシンプルな筋書きをひたすらに、ギレルモ・デル・トロのイマジネーションと撮影技術、VFX技術で磨きあげ、映画としての魅力を発揮させている映画──それが本作なのです。
文学で言うならば純文学に分類されてしまうような映画であり、本作の本質は話自体のテーマそのものよりも、「シンプルなテーマを、いかに豊潤なイメージで描くかという芸術性」に重きが置かれていることは明らかです。
映画冒頭から延々と強調される水中のイメージなどがまさにそれを表しています。主人公の住まいをまるで海底の底に沈んでいるかのように演出し、淡い光だけが差し込む世界としてしまう、このイマジネーションです。
それ自体がこの映画の魅力であり、価値です。
ギレルモ・デル・トロがここまでヌーヴェルヴァーグめいたイマジネーションを抱えた監督であったとは……。
本作はハッキリ言って、特撮技術等々を駆使しながらも、内容は極めて大人です。子供じみたところが一つもありません。イノセントな登場人物がいたとしても、そのイノセントな人物の視点のみに偏らず、その他の人物たちの視点を絡め、あくまで客観的に登場人物たちを見つめています。
今までのギレルモ・デル・トロであれば、ここぞとばかりに特定の人物に寄り添い、他の人物の事情などまったく映しもしませんでした。映画の視点そのものが純粋で、残酷なほどにイノセント――それがギレルモ・デル・トロ映画であったのです。
が、本作はそれを避けているのです。子供の気持ちだけを描く映画に留まっていないのです。
何もかもが、今までのギレルモ・デル・トロ映画とは、明らかに異なる映画です。実際、ギレルモ・デル・トロ自身、この映画を撮って以降、自分の心境に変化があったということを方々で語っています。
様々な点において、ギレルモ・デル・トロの諸作品の中でも最も異端であり、彼の内面の大きな変化を見ることが出来る作品――それが本作なのです。