儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:志乃ちゃんは自分の名前が言えない


南沙良&蒔田彩珠主演『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』予告編

 恒例の手短な感想から

中途半端な出来

 といったところでしょうか。

 

 作り手側が、本作をアイドル映画のつもりで作っているのであれば、別にこんな出来でも良いのですが……残念ながら、普通の映画として見た場合、本作はあまりいい出来の映画ではないでしょう。

 

 本作が取り扱っているのは、いろいろな人が、いろいろと過剰反応しがちなテーマであり、だからこそ、自分がこのブログで、このような低評価を下す事自体を恨む人もいることだと思います。

 が、そういった人の存在を認識した上で、やはり自分は「本作は駄目な映画である」と主張します。

 浮世にいらっしゃる、居丈高に世の中を見下したい人たちからすれば「吃音症をテーマにしている」「原作からして、知る人ぞ知る作品で、大抵の人は知らない」というこの2つの理由だけで支持出来るのかもしれませんが、残念ながら、自分はそんな腐った人間ではないのです。

 

 本作は、根本的な部分こそ間違ってはいないものの、作り手たちの作品に対する姿勢に、いい加減だったり、中途半端だったりするところが多すぎます。 

 例えば、主人公の志乃が初めて歌声を披露するカラオケの場面。ここは、主人公のそのままの歌声を聞かせるべき場面であるはずなのに、なぜか、主人公の歌声に思いっきり、カラオケの音程補正機能が入ってしまっています。

 初めて観客が聞く、「喋れなかった主人公が見せる歌声」がかなり加工されたものになってしまっているのです。これは映画上の演出として、明らかに駄目でしょう。

 その後の場面では、主人公の歌声に変な音程補正が入っていないので、意図的な演出でもなさそうなのです。おそらく、この場面を撮ったスタッフの誰一人も、一切、音程補正機能が入っていることに気づいていなかったのではないでしょうか。

 このように、本作の重要な位置を占めている音楽の扱いが、本当にいい加減なのです。細かいところまで気が使えていません。

 

 他にも、菊池が志乃にアイスクリームをおごって謝る中で、志乃が「なんで?!うるさい!」と叫んで飛び出してしまう場面。果たして、あの場面を見たあなたは、あのタイミングでなんで志乃が「なんで?!うるさい!」というセリフを言いだしたのか理解できましたか?

 おそらく、大抵の人が「なんで急にそんなこと言い出したの?」と戸惑ったのではないでしょうか。あの場面で菊池に対してぶつける言葉にしても「うるさい!」という言い方になるのだろうか?と。

 無理もないことだと思います。なぜなら、あのセリフは原作から無神経に引っ張ってきたセリフだからです。

 原作では、あの場面で菊池は志乃に対して「前から実は気になっていて、本当は志乃と仲良くなりたいと思っていた」と告白をしているのです。

 そして、志乃はそれまで苦手意識があり、自分をからかっている人間だと思っていた菊池が、実は自分のことを好きだった事実に戸惑って「なんで?!うるさい!」とつい叫んでしまうーーという場面が、あの場面なのです。

 

 この原作の流れを、映画はかなり改変しています。別に改変自体は悪いことではないのですが、当然、改変した分、登場人物たちの心持ちなどの変化に合わせて、セリフ等の細かいディテールも変えないといけないのは当然のことです。

 が、この映画はその部分を疎かにしてしまっているのです。

 この場面に限らず、要所要所の場面で「そのセリフは原作の流れだから、出てきたのであって、映画版だとちょっと意味が分からない」というセリフが散りばめられており、作り手の雑さが際立っています。

 

 また、本作、前述の音楽の扱いのいい加減さもさながら、そもそも音楽シーンが無駄に長すぎです。特に、この映画の音楽は「音楽を描きたい」「自分が思う音楽のテーマを提示したい」という類のものではなく「単に、監督が好きだから、作り手に好きな人がいたから、無理して流させました」というマスターベーションめいた使い方をされているので、単純に音楽好きとして「ふざけんな!」と頭に来ます。

 

 もちろん、あれだけ短すぎる原作を、原作の要素だけで映画にしようとすると、どうしても尺が足りなくなるので、こういった水増しシーンを突っ込むのも分からなくはないのですが、それならば「海外の映画等々と同じように、原作のテーマや題材、重要な場面などを取って、別の話として作り上げるべきだったのでは?」と思います。

 

 現に、本作、結構な要素が原作から改変されています。

 中には、良い改変もあるのです。原作の「おかしな要素」を器用に削ったり等も出来ているのです。しかし、そこまでやるのであれば、いっそのこと、話ごと作り変えてしまうべきだったのではないでしょうか。

 

 本作は、そこまで大きく話も作り変えず、そのわりに重要な場面だけは、妙に変わっていてーーという具合であり、つまり、前述したように中途半端なのです。

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