儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:若おかみは小学生!


劇場版「若おかみは小学生!」予告編

 恒例の手短な感想から

普通に駄作。なんで、これ評価されてるの?

 といったところでしょうか。

 

 巷の評判を聞きつけて、鑑賞した本作ですが「過大評価」という言葉がとても似合う作品でした。本作は評判の「今話題の素晴らしい作品」という評価からすると、驚くほどに、作品全体の出来が低調すぎるものとなっています。

 ハッキリ言って、見ていて何が面白いのかよく分からないほどに、つまらないのです。

 もちろん、評価する人たちがどこを評価しているのか、ということは分かります。

 十中八九、クライマックスの展開を見て評価しているのでしょう。かなり強引で、ご都合にも程があるほどツッコミどころだらけの展開で、もたらされたクライマックスでしたが、「でも、泣ける話だから、それでいいだろう。これは傑作だ」というのが、評価している人たちの気持ちなのでしょう。

 ですが、「それでいいだろう」で許容できる範疇というものがあります。この映画は明らかに許容できる範疇を大きく下回っています。

 いえ、そもそも、このクライマックス自体も、実はそこまで良い出来とは言い難いのですが……。

 

 この映画の問題点は根本的に「何がしたいのかよく分からない」というここに尽きるでしょう。

両親を事故で亡くしてしまった、主人公おっこが、祖母の旅館に引き取られ、そこで出会った幽霊に旅館を継ぐように頼まれて、『来るものを拒まない』という華の湯温泉の旅館を継いで若おかみを目指し、いろいろな事情を抱えるお客様と出会っていく中で、両親の死というトラウマを乗り越える話」――この映画のあらすじを簡単に書き出してみましたが、この時点で、一つの映画としてあまりにも要素が多すぎることは明白です。

 いえ、映画でなかったとしても、単純に物語としても、異様に設定が多すぎます。

 パッと見ても「この映画は死をテーマに話がしたいのか?」「死をテーマに、といっても幽霊、両親、どっちの死が主題なのか?」「旅館で働くという話をテーマにしたいのか?」「それとも、出会っていくお客さんたちをテーマにしたいのか?」等々、どういう話にしたいのかがサッパリ見えてこない内容となっています。

 

 そのため、このあらすじを一つの物語として、成立させたいのならば、どうしてもテーマを絞る――ある要素の描写を抑え、ある要素の描写を強調することで、方向性を明白にするという抑制が必要になってきます。

 大人向けの映画でも当然、そういったテーマの取捨は必要ですし、子供向けアニメ映画ならば、なおのこと、話をぼやけさせないために、よりくっきりとテーマを取捨する必要性があります。

 で、この映画はそういった抑制によって、どのテーマへ絞ったのかというと――これがまったくどのテーマにも話を絞っていないのです。

 

 おそらく、未鑑賞の方は前述までの文章を読まれて「え、クライマックスの両親の死に繋がるように描写を絞ってるんじゃないの?」と思われるかもしれません。が、残念なことに、この映画は全てのテーマに対して、逐一、曖昧な描写しかしないのです。

 

 ちょっと話が逸れますが、うじうじして、いつまで経っても、何がしたいのかハッキリ言わない人って居ますよね。

 なんだか、音楽活動だか小説活動だか分からないけれども、なんか創作活動でもやっているらしくてバイトで生計を立て、しかし「そこそこいい年齢に達しているからやめどきかもしれない」などと口走っておきながら、就職などは別にしないで「じゃあ就職しろよ」と言われると、急に「いやでも、両親が年老いていて、介護しなきゃいけないから田舎に帰らないといけないかも」と言い出し、「じゃあ田舎帰れよ」と言われると、今度は「まだ帰るほどの年齢じゃない、創作活動あるし」とか言い出す、煮えきれない人――おそらく、この文章を読んでいる人も何人か思い当たる人がいることでしょう。

 この映画は、まさにそれです。

 

 主人公・おっこが両親の死を受け入れているような描写を出したかと思ったら、次のシーンでは両親の死を受け入れていないようなシーンを入れ、「え、結局、おっこは両親のこと、どういうふうに認識してるんだ?」と疑問に思っていると、そこから関係ない「幽霊がどうしたこうした」という話が始まり「あぁ、この幽霊たちの話が主軸なのかな」と思っていると、今度は「お客さんがどうしたこうした」という話を始め、「じゃあ、今度こそお客さんを饗す話が主軸になるんだな」と思っていると、そのお客さんの話の途中から、また「両親の死がどうした」という話が始まり「え、やっぱり両親の死をテーマにしたいの?」と思っていると、また今度は関係ない「幽霊がどうしたこうした」という話が始まり――本当にクライマックスの直前まで、こんな調子で、一体何を話の主軸にしたいのか、さっぱり分からないままなのです。

 そして、クライマックスになって急に「やっぱり、おっこは両親の死を受け入れてませんでした!」と言い出したかと思ったら、次の瞬間に「でもおっこは両親の死を受け入れました!良かったね!ほら、あなたも感動感動!」と薄っぺらく言い出すのが、この映画なのです。

 

 泣ける場面が来たら「あー泣けるっ」ってなる瞬間湯沸かし器みたいな人以外は、そんな唐突な描写で感動できるわけが無いでしょう。

 原作や、元々のTV放映版も、こんな無茶苦茶な構成になっているのかなと簡単に調べてみましたが、どうやら、全然違うようですね。

 ちゃんと話の主軸を「旅館と幽霊」に絞ったりしているらしく――つまりは、なぜこの映画がこんなにしょうもない出来かというと、一重に、この映画の作り手がそうしてしまったから、というだけの話であるようです。

 

 監督はジブリ出身の方とのことで「自分たちの理想とする、おゲージツアニメーション(笑)を、原作を改変してまで押し付けようとするジブリの悪癖」がまた出てしまいましたね、という感じでしょうか。

 

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