映画感想:クロール ―凶暴領域―
映画「クロール -凶暴領域-」予告編(出演:カヤ・スコデラーリオ )
※若干、ネタバレありです
恒例の手短な感想から
主人公、ゴリラかな……?
といったところでしょうか
サム・ライミ製作の映画については、正直、前回の「ドント・ブリーズ」といい、なんだか最近は「うーん、それでいいのか?」と言いたくなることが多いのですが、本作のおかげで「うーん、それでいいのか?」と言いたくなる例が増えてしまいました。
いや、本当にこれでいいんでしょうか、サム・ライミ。
わざわざ、アレクサンドル・アジャなんて素晴らしいホラー映画の才能を使ってまで、やりたいことがこれなのかと。こんな書き方をしていると、この手のパニック映画が好きな方から「ケッ B級映画だからって馬鹿にしやがって……」なんて、思われる方もいるかもしれませんが、むしろ、正反対です。
B級のホラー映画でワニを題材にした映画って、普通に面白い作品が多いのです。それらの作品と比べて、本作が抜きん出た内容――つまり、アレクサンドル・アジャを使うだけに足る内容の映画になっていたかというと、明らかになっていません。
確かにホラー演出は見事なものです。怖がらせ方はさすがアジャ監督というべきか、一つ一つの描き方が上手く、特にときおり出てくる三人称視点は「ワニの視点」にも見えるし、そうでないようにも見える――という絶妙なバランスのカメラワークであり、これは白眉です。
おかげで常に「ワニが水中にいるんじゃないか?」とドキドキさせることには成功しているのです。
しかし、全体的には見ていて頭が痛くなるほどに、内容が馬鹿っぽくてなんだか感情移入が出来ないのです。
一見すると論理的に構築された脚本のようでいて、実際のところ、本作の脚本はなんだか各登場人物たちが行動する動機が「バカすぎる」のです。
例えば、映画クライマックス付近で主人公の父親がワニに襲われるシーンです。
当然、父親が襲われたから、上の階にいる主人公が父親のことを心配するまでは良いとして――で、次のシーンで、主人公が「お父さんどうした?」って言いながら水面に飛び込んでくるのは、いくらなんでも行動としておバカすぎでしょう。
しかも、この主人公、それまでに散々ワニと対峙して怖い目に合い、なんなら水面に手を出して腕を噛まれたりしているのに「お父さん、だいじょーぶー?」と言いながらボチャンです。……この主人公、ゴリラかな?
そのあと、当たり前のように、主人公は、主人公へと矛先を変えたワニとチェイスする羽目になるのですが……もうスクリーンの前にいる自分は「えぇー……」と内心で呆れるしかないでしょう。
一事が万事、こんな調子であるため、「あ、今、窓にちょっとヘリが見えたわ!」って言いながら、水族館のケース並に水位が上がった窓に平然と駆け寄ってワニに襲われたりする主人公に「ゴリラなのかな?」という印象をどうしても抱かざるを得ないわけです。
実際、堤防が決壊したことによる激流の中でも雨樋を掴んでその場に留まれるほどの握力があるみたいですし、この主人公、ゴリラなのではないでしょうか。劇中でしばしば、主人公は猿座りからの膝立ちで水面を覗いていましたし、ゴリラでしょう。
しかも、主人公の決め台詞が「Apex Predetor,All day!(訳:私は食物連鎖の頂点だ!)」ですからね。実際、昔の生物学では頂点捕食者とされたワニに絡めたセリフなのですが、*1……いや待てよ。霊長類で他の動物を倒せそうな動物……やっぱり、ゴリラじゃないか。
そんなわけで、本作はつまり「ファッションモデルが、なぜかゴリラを演じながら、ワニと対決する映画」なわけです。
真面目に評価するのがバカバカしいですね。
Bruno Mars Gorilla Lyric (OFFICIAL LYRIC VIDEO)
あ、ちなみに、本作でお披露目されたワニ知識ですが、端から端までデタラメしか言ってないので、本気にしないようにお願いします。そもそも、ワニって地上でも結構速く走れますから。一応、人間の全速力と同じくらいには走れます。
本作は、そういういい加減なバカ映画にしたいのか、真面目なホラーにしたいのかどっちつかずなところが、本当に評価に困ります。
*1:現在の生物学では、そもそも頂点捕食者という考え方が古いとされています。