映画感想:アメリカンスナイパー
恒例の手短な感想から。
うーん。正直、評価に迷うほどちぐはぐな出来の映画
といったところでしょうか。
素晴らしいところも多々ある映画ではあるのですが、その分「へ?」とか「は?」とか言いたくなるようなシーンも多く含まれている、非常に評価に困る映画となっています。
これがたとえばブロックバスター系の凡百な監督であったなら「大衆向けでありながらも、そこそこ”政治的にも”頑張っていると思います」という評価で済んだのかもしれません。がしかし、本作の監督は「父親たちの星条旗/硫黄島からの手紙」のクリント・イーストウッドであるわけで、それを鑑みて評価すると「えー……」としか言えないのです。
全体的には、クリント・イーストウッドらしく、手堅い出来に仕上がっていますし、特にこの映画の「戦場に帰ってからの兵士の気持ち」を綺麗に再現しているところ、まったく戦場が分からない僕たちでさえその片鱗を感じることが出来るところなどは素晴らしいのです。
また、非常に政治的なメッセージを極力排除しているのも良点です。全体的にはなるべく、事実のみを伝え、余計な脚色や、余計な演出をして、「どちらかの意見に加担すること」を避け、あくまで観客に考えさせることを優先したこと自体は、正しいでしょう。
が、それと同時にこの映画は、非常に多くのシーンが異様なほど”紋切り型”で作られているのです。紋切り型という表現が分かりにくければ、陳腐と言い換えてもいいです。特に、この紋切り型演出を見て取れるのは、序盤、主人公が一回目の派兵で、自分の妻と電話で会話している最中、戦闘に巻き込まれる場面です。
こういうシーン自体があるのはいいのです。通信電話でやり取りしている感じなどから、「これは今の戦争なんだ」ということを実感させることができますから。
ただ、主人公が戦闘に巻き込まれてから、向こうの電話口で「なんてことなの…」とショックを受けて泣いている奥さんが、交互にモンタージュされるのが、ちょっと…。”映像的な対位法”と考えてもあまりにも、演出として陳腐すぎます。
また、主人公とムスタファの対決も、いかにも「作ったお話」感がありすぎです。互いに意識しあっているかのような演出がされているところを見ても、ちょっとこれは現実の出来事とは捉えにくかったです。また、関連してとあるシーンで突然使われるスローモーションも、非常にこの映画全体のテイストからすると拍子抜けするほど変です。
特にこの映画はエンドロールからも分かる通り、そういった余計な要素を抜いている映画です。その分、ここだけ突然、スローモーションという、分かりやすくアクション映画的な演出を入れられるとかなり戸惑います。*1
とはいえ、「じゃあ、酷い出来の映画なのだ」と言い切ることもできないのが、この映画の評価に困るところです。前述したように、映画全体は手堅く作られています。それにスローモーションや話の筋書きに違和感を覚えつつも、この映画の全体的な戦闘シーンの描き方はそんなに酷いものでもありません。
少しテイストとして、オンラインFPSゲームの「バトルフィールド」っぽすぎるという問題はあるような気がしますが*2、だからといって、この映画を見て戦意が高揚されることは決してないでしょう。むしろ、ひたすら戦争に対して、どんよりとした気持ちを持つことになるのは間違いないです。
以上、アメリカンスナイパーは実に評価の困る映画です。僕個人としては、未だに評価が定まっていません。