映画感想:アントマン
恒例の手短な感想から
面白いところだけは、面白かった。つまらないところは…
といった感じでしょうか。
一応、映画の出来からすると「ホッとした」というのがまず言っておきたいことになります。流れてくる報道を見るかぎり、「アントマン、大丈夫か!?」と不安になった人は多かったことでしょうから。
自分はあんまりアメコミにのめり込んでいる人間ではなく、ちょっとバットマンを知っていて、あと、アランムーアの「ウォッチメン」や「フロム・ヘル」を読んでいると言った程度の人間であり、アメコミ映画もたまに見えるけど、しょっちゅうは見ない人間なのですが、それでも、この映画に関しては不安でした。
なにせ、あのエドガー・ライトを降板させて、その後釜としてあてがったのがよりにもよって、ペイトン・リードなんて、悪い冗談としか言いようがなかったからです。今作、近年のアメコミ映画でも、特に珍しいレベルで期待値が異様に低い映画だったと言えます。
その期待値の低さからすると、意外にも面白い映画にはなっていると思います。ただし「エドガーライトだったら、ここ、こうしただろうなぁ」とか、そういう比較をしなければ…の話なのですが。
まず、この映画の面白いところを簡単に言ってしまいましょう。それは「物が大きくなったり、小っちゃくなったりする面白さ」です。ただ、物が大きくなったり小さくなったりするだけでも、結構、画面としてはSF的なセンス・オブ・ワンダーが働いてくれるので、それだけで映画としては見れるものになっています。
ミニチュアサイズで戦うシーンも、普通の戦闘シーンなのに、ミニチュアサイズという条件が付くだけで、なんだか妙に新鮮さがあって、そこは非常に楽しめます。かつて、自分は「インターステラー」の記事で「僕はSFの作品に”面白い現象”が見たいのです。」と書いたことがありましたが、この映画の面白さもそういう部分が大きいでしょう。とにかく、面白い現象がいっぱい見られます。
また、この映画には、ネタバレになってしまうので詳しくは書きませんが、「POWERS OF TENという科学映画をオマージュしてるんだな」と思われる描写がいくつか存在していて、実は、このPOWERS OF TEN的な面白さもあったりします。そこもいいところでしょう。
そして、なんだかんだいって、全体的にテイストが軽いのも自分としては評価に加えたいです。最近、深刻な顔して、顔に影を付けながらあーだのこーだの小難しいことを言ってる映画が多すぎな気がします。*1なので、この軽いテイストというのは、評価したいかなと。
以上がこの映画の褒めポイントです。で、この映画のそれ以外の要素は、ハッキリ言って苦痛なレベルでダメです。特に酷いのは撮影と編集です。ハッキリ言いますが、この映画の会話シーンにおけるカメラワークは「日本のダメなテレビ映画だって、もうちょっとマシに撮ってるものもあるでしょ」と言いたくなる程度のものです。登場人物は全員、バストアップで撮り、それをひたすら馬鹿のように、誰かがセリフを喋るたびにチョコチョコチョコチョコとカットを割って…ハッキリ言って眩暈がするほど編集も撮影も下手くそです。ここらへんは「さすがダメ監督のペイトン・リード!」としか言いようがないです。
あと、物語の筋書きにツッコミどころと、ご都合主義が多すぎです。そこを、全体の軽いテイストとギャグでどうにか押し流して誤魔化しているという状態で、具体例を挙げれば「ピムは娘のことを犠牲にしたくなくて彼女をアントマンにさせていなかった、という話からすると、最後のアレはかなりおかしい」とか「アントマンのアレをクライマックスでアレしちゃうのに、その直後、生還した後で、普通にアントマンが小さくなれちゃうのって…?」とか「ピム、お前、そんな七面倒くさい経路で主人公を自分の家に来るように誘導するくらいなら、最初から、普通に主人公に金渡しておびき寄せればいいだろうが!」とか「そもそも『原子の相対距離を縮めて小さくなる』という原理では、どうしたって原子以下のサイズにはなれないだろう(これは野暮なツッコミ)」とか、そこそこ物語の根幹にかかわるような部分に、巨大な穴が空いている状態で、正直、この映画のドラマ部分はあんまり真剣に見ない方がいいです。
以上、アントマンの評価になります。
*1:しかも、自分からすると、大抵は『オレたち、難しい話もできるんだぜ?』というアピールにしか見えない程度の、小難しいわりには、言ってる内容自体は底が浅めなのが、残念というか…