儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:ハーモニー


「ハーモニー」劇場本予告 - YouTube

 

 人の意識、というのは不思議なものです。なぜなら、意識は殆どの人が当たり前のように持っていると自覚しながらも、じゃあ、ちゃんと持っていることを他人に証明できるかというと、まったく出来ないものなのですから。しかも、人間は無意識的に行動する瞬間だって存在しています。この瞬間、この文章を打っている僕の手だって、この文章を読んでいるあなたの目だって、果たして、意識して動いているのか、無意識で動いているのかは判別がつかないものです。

 事実、脳科学上でも、脳の部位に「意識」を司る部位は存在していないことは確認されています。しかも、いくつかの実験によって、脳が意識する前に脳が体に命令を出して体を動かしてしまっていることが示唆されていたりと、そもそも、本当に存在するのかどうかさえ怪しい状態なのです。そのため、意識とは一体なんなのか、という命題は哲学や脳科学において、巨大な疑問となってきました。

 特に最新の脳科学・認知科学では、意識は存在していないのではないか、あったとしても人間の行動とは大して関係ないのではないか、という見解が、徐々に共有されつつあり、自由意志は人間に存在していないのではないかと言われるようになってきました。

 それらを論じた有名な著書には、スーザン・ブラックモアの「意識 (〈1冊でわかる〉シリーズ) 」、あるいはデイヴィッド・イーグルマンの「意識は傍観者である: 脳の知られざる営み 」などもありますね。

 個人的には、非常に平易でかつ、的確で分かりやすいという一点で坂井克之の「脳の中の「わたし」」なんかもオススメだったりするのですが、とにかく、それくらい、現在、脳科学者の間で共有されつつある見解なのです。

 で、本作ハーモニーは、(原作の時点でそうなのですが)それを描いた映画になります。

 

 なるんですが…。

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かなり前置きが長くなりましたが、

恒例の手短な感想を書きましょう。

説明…説明…説明…説明…

といった感じでしょうか。

 

 この映画の問題点はこれにつきます。なんでもかんでも説明しすぎ。とにかく、なにか状況が変わるたびに、ナレーションでいちいち状況を解説してしまうのが、しつこすぎます。おかげで、物語としては大したものじゃないのに、尺が無駄に長いのです。この原作、本来ならば、映画にしたら60分かそこらの尺で収まるような内容なのですが、このうざったい説明セリフのせいで、二時間くらいあります。

 二時間、言うほど、大きなことも起こらないままダラーッと話が過ぎていくだけの物語をずっと見せ続けられるわけですから、ハッキリ言って苦痛です。いえ、もはや、苦痛を通り越していて、ぽっと出の敵キャラが、撃たれた後で「ウググ…」と呻きながら、延々と説明セリフを喋りまくるシーンがあって、爆笑です。正直、出来としてはトンデモ映画レベルでしょう

 少し絵に関する専門的な話になりますが、一部のシーンのパースや、登場人物の立体がおかしかったり、カットを跨ぐと登場人物の髪型が微妙に変わってしまっているシーンがあったりと、アニメとして間違っている部分も、多々見受けられますので、画面のクオリティ的にもアレな状態だったりします

 しかも、なにが最悪って、ラストを微妙に改変していることが最悪でしょう。最終的にただの痴情のもつれに話を矮小化したのは、論外としか言いようが無いです。原作どおり、話のテーマを追ったまま終わらせればよかったのに、わざわざ余計な気持ち悪い感傷的な話を持ってきて、終わらせてしまったのは、ダメだった時期のハリウッド映画のようでもあります。

 

 ちなみに、これだけ書きましたが、実は僕、別に原作の「ハーモニー」のファンではありません。というか、伊藤計劃のファンですらありません。正直、伊藤計劃の見ているビジョンには、それほど驚きも関心もなにもない、という状態です。だから、原作が好きだから、この映画を貶しているわけではないのです。

 正直、原作も本作も、両方嫌いです。

 そもそも、この「ハーモニー」は、原作の時点で話が微妙に破綻していたり、行き当たりばったりで作ってしまっているところが散見されるうえに、「意識の話」に集中しすぎるあまり*1、話に起伏があまり無かったりと、結構、よくよく見てみると問題の多い一品なのです。

 映画化するときはかなり神経を使って、原作の破綻やアレな部分をそれなりに修正する必要がある内容だと僕は考えているほどです。それを無神経に、なんにも考えずに映画化してしまった結果、案の定、原作に元々あったアレな部分が露呈し、そのうえ、説明まで重ねたために、余計に酷いことになった…と、そう言えます。

 これで、せめてSFとして斬新な美術とかを提示できてれば、まだ評価を出来たのかもしれませんが、むしろ、SF的な絵面としては「え、今更、それですか」と言いたくなるほどの古臭いセンスが遺憾なく発揮されており、そういう部分も、とても評価できません。

 いやぁ、これは制作自体に一悶着起こっていた虐殺器官が不安になりますね…。

*1:しかも、その意識の話自体、ちゃんと理解しているのか怪しいところも少しあります

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