儘にならぬは浮世の謀り

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映画レビュー:オリエント急行殺人事件

 

オリエント急行殺人事件 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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ロンドンで起こった事件のために、至急、イスタンブールから旅立つ必要があった名探偵・エルキュールポアロ。友人であり、なおかつ、鉄道会社の重役でもあるビアンキの協力を取り付けて、特別に満車だというオリエント急行に乗せてもらえることになったポアロ。

しかし、乗ったオリエント急行は、途中で大雪のために停車してしまう。そんな中、ポアロはラチェットという富豪から急に用心棒を依頼され――――

  言わずともしれた名探偵ポアロ。彼ほど、ミステリーにおいて多大な影響を与えた名探偵はないと言ってもいいと思います。自分はどちらかというと、シャーロック・ホームズの方を多く読んでいるのですが、それでも、シャーロック・ホームズよりエルキュール・ポアロの方が、実質的には有名であると言わざるをえないのです。

 なぜなら、現在のいわゆる名探偵像――名探偵コナンやら、古畑任三郎やら、なにやらの様々な作品に出てくる「名探偵」のイメージの原型は、明らかに彼であるからです。

 世間では、名探偵のイメージの原型は、シャーロック・ホームズであると思われがちですが、それは違います。シャーロック・ホームズシリーズは、実はどちらかというと、007やルパン三世に近いような内容であり、現在の名探偵らしい「密閉された空間の中でトリックを暴いたり」「あらかじめ決められた登場人物の中で、犯人がいるのを探す」といったことは、実はシャーロック・ホームズではあまりないのです。

 それらが頻発していたのは、このエルキュール・ポアロシリーズであり、現在の名探偵像の半分近くは、ポアロシリーズで創造されたと言っても過言ではないでしょう。

 

 中でも、このシドニー・ルメットが監督した「オリエント急行殺人事件」は、前述した名探偵コナン、古畑任三郎に強く影響を与えていて、ハッキリ言って、この映画を見ていると「あ、ここコナンっぽい」「あ、ここ古畑っぽい」と、いろいろ気づくことがあるはずです。二つとも、この映画が元ネタなんですね。

 それくらい、世の名探偵像に根強いイメージを与えた本作ですが、その評判に違わず、本編は素晴らしい出来栄えです。

 絢爛な音楽とともにピンクのシルクに、キャスト等のレタリングが入るオープニングで、相当に心を打たれてしまうと思います。そして、オリエント急行が発車するシークエンスの、絵画のような美しい撮影とそれを引き立てる演出の妙。

 序盤の、おそらくは「(サイレント含めた)白黒時代の映画のオマージュ」と思われる、描写の数々もしかり。 

 このように、表面的な部分だけでも、十分に素晴らしいのですが、なによりも、本作は映像的な暗喩表現、間接表現がふんだんに使われているところも見どころです。ただ「陸の孤島」的な状況を作るための舞台装置であったはずの大雪を、登場人物たちの将来を暗示するような表現として解釈しなおして使っていたり、といった表現の上手さはシドニー・ルメットらしいものです。

 

 もちろん、原作自体の出来の素晴らしさも、この映画の出来に大きく貢献しているのですが…。オリエント急行殺人事件では12という数字がやたら強調されます。この数はとてもこの映画において重要なのです。

「12人の怒れる男たち」という劇、および映画もありましたが、つまり12人というのは裁判の陪審員の数であります。これは本編でも言及されます。そして、もう一つ、本編では言及されませんが、キリストの使徒の数も12人です。

 その12人に対して、現れた一人の男がポアロ――つまり、この映画においてポアロは……。

 キリスト教における「罪と許し」という部分をミステリーに絡めながら、極めて上手く表現してもいるのが、この「オリエント急行殺人事件」なのです。

 

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