映画感想:ちはやふる -下の句-
※今回は少しだけネタバレが入っています。
恒例の手短な感想から
上の句があれだけ面白かったのに…?!
といった感じでしょうか。
正直言って、上の句はかなり感心する出来でした。元々、面白い漫画が原作とはいえ、競技かるたという世界をこれほど上手く伝えられる技量と、極めて王道的な、かといって「ありきたり」には落ちない面白い物語をテンポ良く進めていく技術、しかも、それが典型的な”メジャーな日本映画”の制作体制の中で作られたということに、驚きすら覚えたほどです。
確かに近年でも(大抵の、よく知りもしないくせに批判だけはしたがるお馬鹿な人が言いがちな"定説"を裏切って)面白い日本映画はいくらでも存在していたわけですが、特に「上の句」が素晴らしかったのは、近年は特に批判されがちだった、いわゆる「実写化」映画で、しかも公開規模や予算の規模から言っても、監督の経歴から言っても、地雷化しやすい環境にあったはずなのに、真っ当に面白かったという部分です。しかも王道的に面白かったのです。
王道的に面白いとは、つまり「これからも同じ方法論で面白い映画が出来る可能性が高い」ということです。近年の日本映画で評価されがちだったアバンギャルドな、ヘンテコな、変わり種の方向性で面白い映画たちは*1結果、面白いものが出来上がったとしても、もう一回、同じ方法で作っても同じくらいに面白くなる確率がものすごく低いのですが、こちらは決してそうではないのです。
ようするにモデルケースとして、これを真似すればそれなりに面白い映画がまた作れるかもしれないことを、実はこの映画の制作も含めた全体が示唆しているのです。これは日本映画にとって明るいニュースでしょう。
当然ながら「下の句」もそれなりには期待して観に行っていました。もちろん上の句自体は、完璧な映画ではなくアチラコチラでちょっと眉を顰めたくなるような雑さが見え隠れもしていた映画です。最悪の可能性も考えていましたが、結果、下の句は…………。
非常に、非常に、残念なことに自分は鑑賞しながら、なぜ、この映画がつまらなく感じてしまうのかという原因を必死で分析していました。
いえ、誤解をしないで欲しいのは今までさんざん見せられてきた、アレな出来の映画の数々と比べれば遥かにマシな出来だということです。そこと一緒にするのはさすがに可哀想です。さすがにそのレベルではない――ただ面白いと手放しで絶賛するのは到底ムリでもあります。
というより、全体的になんだか惜しいのです。いろんな場面が惜しい事が多かったです。全体的なものが間違っているとか、根本的な部分から言ってることがおかしいとか、そういうことはなかったのです。ちゃんとしている場面もあります。
しかし、問題点も多いのです。
まず、肝心の競技かるたの場面を省略しすぎです。特に酷かったのは団体戦の描写です。この処理は最低に位置すると言っていいです。特に上の句で、あれだけ、机君がまったくかるたの札が取れない、勝てないという葛藤に焦点を当てていたのに、下の句で彼が勝つ場面を省略しているのはちょっとどうなんでしょう。
おそらく上の句の物語にのめり込んだ人ほど、机君が勝つ場面を実際に見てみたかったはずです。せめてダイジェスト的なカット割りでいいから、彼が勝って「瑞沢、一勝!」と叫ぶ瞬間を入れた方が観客にとってはサービスになったのではないかと。
また、下の句は序盤から微妙に暗い場面が多すぎです。もちろん、物語上そうなってしまうのは仕方のない部分もあります。実は、作り手がこの事に気づいていないわけでもなく、なんとか、暗くならないようにアチラコチラ工夫も入れているのですが、この工夫が上手く働いていないのです。
そして、スローモーションを使いすぎです。スローモーションを日本映画は本当に好んで使いがちですが、このスローモーションも使い過ぎると「画の迫力」よりも、テンポの悪さが気になってきてしまうことに気づくべきです。*2
ただ、ちはやふるのスローモーションは、構図等は悪くないので、本当に多少減らすだけで十分かもしれません。例えば、連続でスローモーションのカットを入れるのはやめて、合間合間に通常速のカットを挟むとか、その程度で見れるものになるかもしれません。
もう一つ、そもそもの話として、この下の句、話の筋書きが微妙におかしいでしょう。映画の前半では、団体戦に向けている中で一人だけ個人戦に(それもクイーンとの個人戦に)固執している千早がいて、「お前はチームに要らない。お前がいなくても勝てる」と言われてしまうという展開があった上で、本当に千早が居ない状態で団体戦を勝ってしまうのって相当にアレな筋書きではないかと思いますが。
原作のエピソードを繋ぎ合わせた結果、こうなってしまっているんですが、もう少し冷静に全体の脚本を俯瞰した方が良いです。実は下の句、このように原作を繋ぎあわせていった結果、微妙に矛盾している場面が多いのです。
上の句は上手く繋ぎ合わせていたのに…どうしてこうなってしまったんでしょうか。ひょっとして、最近の映画にありがちな前後編分けて、更に続編も――という商法に巻き込まれて無理やり内容を変更せざるをえなかったんでしょうか。
ともかく、このように上の句が素晴らしかった分、余計にいろいろとガッカリしてしまう下の句でした。