儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:怒り


「怒り」予告

恒例の手短な感想から

意外に良い出来。ただ、過大評価されそう。

といった感じでしょうか。

 

 正直、李相日監督の作品の中では最高の作品だと思っています。これが、本作「怒り」に対する率直な感想です。李相日監督が、それほどに良作を連発してきた監督だから言っているのではありません。正直、自分が見てきたかぎり、李相日監督は「え、なにこれ?」と言いたくなるような、微妙な出来の映画を作る監督だったからそう言っているのです。

 一応、酷い出来の映画を撮ることはまずないのです。撮影とか脚本とか「映画として最低限これくらいはあって欲しいよね」という部分はクリアしてはいるのです。が、全体的には「ちゃんと考えてないまま、作ってるよね」という部分が多く、結果、面白くもなんともないという作品が多い監督でした。

 

 例えば「スクラップ・ヘブン」――この映画の内容を一言で言い表すなら「ファイト・クラブを何も考えないでパクると、お察しな出来の映画になってしまう、という典型例の映画」と言えます。

 もうやることなすこと「あーファイトクラブに影響受けたのね」って感じのことを延々とやる映画で、その上、編集が強烈にダサいんです。スプリットスクリーンの使い方などは、まるで「ライフカードのCMか!」と言いたくなるほどに酷いものでした。

 

 そして、この監督が作った映画の中で、一番許せないのが「許されざる者」です。これはクリント・イーストウッドの名作を、改悪につぐ改悪の挙句に「薄っぺらい差別・被差別」の話に落とし込んでしまった駄作リメイクです。

 クライマックスで、無意味にスローモーションを使いまくるところも含めて、本気で「李相日監督は自分の能力を過大評価している」と感じた一作でした。

 

 このように、李相日監督はなんだか、毎回作る作品が微妙なのです。で、その李相日監督にしては、本作は相当面白いです。まあ、実のところ、原作をなんにも考えずに、そのまま映像化している感は少し否めないのですが……。

 それでも、原作が面白かったせいか、偶然にも相性が良かったのか、本作はそれなりに面白い映画として成立しています。

 ミステリーものなので、詳しいネタバレとかは避けますが、(もっとも、この映画、あまりミステリーとしての結末が、本題と関係ない感じもするのですが)内容は、原作の吉田修一が定番とする群像劇で、様々な人の様相が描かれていき、最終的にそれらがどうなることで、その中から一つのテーマが浮かび上がってくる、という形式の作品です。

 それらを、それなりにリアルに李相日監督は映像化していると思います。それなりに、なのですが……。

 また、ミステリーらしく、本作にはミスリードさせるための要素が大量に仕込まれているので、冒頭を見たあとは、引き込まれて最後まで見たくなってしまうのは間違いないでしょう。本作は選ぶ題材が、センセーショナルなこともあり、映画鑑賞後に様々な感想を述べる人が出るのは間違いないはずです。

 

 ただ、過大評価もされそうだな、というのも、自分の正直な感想です。

 選んでいる題材が題材なだけに、ここぞとばかりに、この映画を利用して「自分たちに主張がいかに正しいか」と言い出す人たちが居そうだな、と。そして、その人達が「自分たちがいかに正しい側の人間か」という箔付けをするために、この映画を過剰に評価しそうだな、と。

 

 逆に行ってしまえば、自分はそこまで「傑作級」みたいに評価する映画でないとも感じています。

 正直、この物語……ミステリー的なミスリードのために用意した様々な話のせいで、肝心のテーマが結構ボヤケていませんか

 

 例えば、映画を最後まで見た上で、この映画が最終的になにをどう言いたかったのか、ちゃんと理路整然と言える人って居ますか。

 なんとなく題の「怒り」について「悔しさ」について「人と人が共感できない何かについて」がテーマになっているんだなとは分かると思います。が、そう考えると「あのゲイカップルの話とかなんだったんだろう?」ってなりませんか。「大事なものは少なくなっていく」って、この全体の話と関係ない話ではありませんか。

 

 この物語、本来ならば「殺人犯だったあの男の周辺の話」だけで、テーマとしては成立しているんですよね。そこらへんを映画化する際に、ちゃんと整理しないまま映画化してしまっています。

 つまりは、やっぱり「あまり、考えないで映画を作ってしまっている」感は否めないのです。偶然にも、テーマが「人と人は分かり合えない」とか「人の整然としてない感情をどう伝えるのか」とか、そんなことが言いたげな雰囲気の物語なので、理路整然としていない出来栄えでも成立できたというだけで……。

 

 なので、ハッキリ言って、今後も李相日監督の作品に期待することは、無いと思います。

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