映画感想:モアナと伝説の海
恒例の手短な感想から
冒険心をくすぐる、傑作!
といったところでしょうか。
いつ頃くらいだったでしょうか。確か「アーロと少年」に同時上映としてくっついてきた短編映画を見たあたりくらいから、だったと思います。なんとなく、ディズニー/ピクサー作品のデザインセンスが、任天堂のゲームのデザインセンスに似てきているなぁ、と感じ始めたのは。
なんとなくですが、ディズニーは今までの剣と魔法のファンタジーを卒業しはじめ、欧米的ではないファンタジー――つまり、民俗的な神話のファンタジー要素を取り込み始めているのではないかと。その結果、任天堂などが描いてきたファンタジーに近いものを作り始めているのではないか、と。
自分はそう思ってきたのです。
そう思っていたのは間違いではありませんでした。
本作、「モアナと伝説の海」はこの上なく、民俗的な神話のファンタジーを取り入れた一作となっています。いえ、むしろ、それがようやく結実した一作と言うべきかもしれません。
苔むした遺跡や、深海のダンジョン、物語のきっかけを与える太鼓の音――まるで「ゼルダの伝説 風のタクト」のような、大海原を旅する冒険譚がそこにはあったのです。
大昔から伝えられている伝説から生まれた呪いが、主人公たちの村に襲いかかり、その呪いを解く旅路に向かう、一族の長の子息――物語のあらすじ自体は、ロード・オブ・ザ・リングなどに代表される典型的な『行きて帰りし物語』ですが、今作は、あれらの北欧神話などの神話とは、明らかに違う神話を取り込んでいます。
それはマウイなどの登場人物の名前が示すとおり、ハワイに伝わる神話です。*1
であるからこそ、本作は、任天堂的なデザインセンスであると同時に、実は日本のあるアニメ映画と非常に近い内容になっています。
それは、もののけ姫です。
もののけ姫は行きて帰りし物語のフォーマットに、日本の民俗的な神話を取り入れた一作でした。本作と、コンセプトとしては、かなり近いものを持っています。
実際、この映画は様々な箇所で「あーこれ、もののけ姫を意識してるんだなぁ」と感じられるものが登場していますし、映画の作り手たちもコンセプト的に本作が近いことを自覚しているのでしょう。*2
ディズニーは、去年、実写の「ジャングルブック」でも、もののけ姫の真似をしており、そちらはこのブログでは酷評しているのですが、本作の「もののけ姫」オマージュはまったく気になりませんでした。おそらく、本作はちゃんと「一神教的ではない神」が描かれているからでしょう。
今までのディズニーは、この「一神教的ではない神」の感覚をなかなか取り入れることが出来ず、苦戦してきました。それは今までの短編映画を見ても明らかなことです。ハワイの火山島を擬人化させた短編やら、上記のジャングルブックやら「本当に分かってないんだなぁ……」と言わざるをえない描き方をしがちでした。
それがようやく、この映画で結実したと言えるでしょう。
つまり、
民俗的な神話と、大海原を舞台にした大冒険。
この二つこそが、この映画の本質なのです。
マッドマックスやゴジラへのオマージュが――世間ではここをやたらクローズアップして騒いでいるきらいがありますが――もちろん、ジョークとしては面白いのですが――この映画の魅力なわけでも、面白さなわけでも、本質なわけでもないのです。*3
傑作短編「ひな鳥の冒険」から、ここまで心浮き立つ冒険譚に話を膨らませられたことは、本当に素晴らしいと思います。