映画感想:無限の住人
恒例の手短な感想から
そう!こういう傑作が見たかったんだ!
といったところでしょうか。
三池崇史といえば、かつては良くも悪くも無茶苦茶な内容の映画だとか、妙な演出の入ったしかし傑作としか思えない不思議な映画やらを撮ってきた監督なわけですが……。
今やその影もないほどに、ただの「見えている地雷な実写化映画案件」を、本当は別にこんな映画撮りたくないんだろうなと思わせるレベルで、いい加減に撮ってばかりいる姿に、落胆する映画ファンは多かったことと思います。
そんな三池崇史が久しぶりに、満を持して本気を出してくれたのが、まさに本作
「無限の住人」だと言えます。
もちろん、最初に実写化の話を知った段階で「おそらく、無限の住人だけは、三池崇史は本気で撮るはずだ」と予想はしていました。ただ、予想していたよりも遥かにその本気度が上回っていました。
それは映画最後のスタッフロールを見ても明らかなのです。なにせ、本作、きっちりと撮影のコンテを切ってから、更に脚本分析――つまりはスクリプトドクターまで入れた上で撮っていますから。
きちんと見ている人が退屈しないような話作りを心がけ、また撮影もこだわっているのです。
実際、この映画は二時間を超える大作だと言うのに、二時間も尺があることを感じさせません。映画の始まりから終わりまで、延々と怒涛の展開が続き、数分に一回は、誰かと誰かが斬り合っているという、究極の殺陣アクションエンターテイメント映画となっていたのです。
また、役者陣もこの”殺陣”を頑張っていて、主演の木村拓哉はもちろんのこと、福士蒼汰も市原隼人も誰も彼も(*1)が本当に「全盛期の時代劇映画」を思い出すクオリティで斬り合っているのです。
もちろん、シーンの一部はスタントによるものと思われますが、しかし、スタントだけでは説明できないシーンも多く、役者陣自体が相当頑張らないと、このクオリティの殺陣は達成できないはずです。
いえ、殺陣だけではありません。乗馬も「一体、今の日本のどこに、これだけ馬を乗りこなせる人たちがいたのだろうか?」と疑問に思うほどに、大量の馬が画面上を駆けること、駆けること……。
そして、殺陣の全てが三池崇史テイストのグロテスクなものとなっており、おそらく、三池監督ファンならばこの映画は必見かと思います。
どの殺陣も、見ているだけで体の節々に「実際、刺されたような痛み」を感じてしまうほどに、なんとも痛そうに撮られていて本当に素晴らしいのです。少なくとも、殺陣のクオリティはリメイク版の「十三人の刺客」を超えています。確実に。どう考えても。超えています。
実写化映画としても、本作は間違いなく、三池崇史監督が手掛けた中では一番の出来です。……もちろん、他がちょっと酷すぎるというのもありますが、それを抜きにしても、最初は「キムタク以外の何者」にも見えないキムタクが、映画の最後らへんでは本当に、一瞬、そこに万次がいるかのような錯覚を覚えてしまうほどによく出来ています。
それだけ、映画のマジックが効いているのです。
これはキムタクに限らず、全ての役者に当てはまることで、どの人も最初は「いや、どう見ても戸田恵梨香だよなぁ」「どう見ても福士蒼汰だよなぁ」としか思えないのに、終盤になってくると「あれ…? 今、戸田恵梨香に槇絵が宿ってなかった?」「影久そのものにしか見えない…」と思える瞬間が必ずあり、本当に驚くしかありません。
グロテスクな映像が苦手でない人ならば、一回は見てみていいと思います。キムタクが苦手だったりする人でも全然、大丈夫です。――いえ、実のところ、苦手な人ほど本作は面白いこともあるかもしれません。自分も好きな方ではないですし。
「演じている人は嫌いなのに、この映画の人物に関してはなぜか好きだ」
様々な映画を見ているとたまに、そういう一作と出会うこともあるのです。