儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:夜明け告げるルーのうた


『夜明け告げるルーのうた』予告映像

 恒例の手短な感想から

この映画、相当すごいけど、相当に人を選ぶぞ!

 といったところでしょうか。

 

夜は短し歩けよ乙女」――今年、上映されたアニメ映画の中でも、間違いなくトップレベルの素晴らしい映画でした。その監督は、このブログでも紹介したとおり、湯浅政明監督なのですが、その湯浅政明監督が、なにをどうトチ狂ったのか「夜は短し歩けよ乙女」と微妙に被り気味な感じで出してきた映画が、本作「夜明け告げるルーのうた」になります。

 しかも、本作は湯浅政明監督の完全オリジナルだというのだから、トンデモナイです。実のところ、湯浅政明監督のオリジナルアニメーション映画は、本作が初めてで、公開される前から「原作があってもあれだけぶっ飛んでる作風なのに、オリジナルになるとどうなってしまうのか」という、期待と不安でいっぱいなのですが……。

 

 ハッキリ言って、その不安も期待も、両方見事に当たっていたとしか言い様がない出来でした。

 本作、良い意味でも、悪い意味でもトチ狂っていること、トチ狂っていること……このトチ狂い方は、イルミネーション・エンターテイメントの3Dアニメと比べても圧勝するレベルでどうかしています。

 出てくる登場人物たちは、誰も彼も「一体、なにを考えてるんだ?」と見ている端から疑問しか出てこないほど、唐突に謎な行動をしてきますし、なによりも、この映画で一番、何が訳が分からないって、主人公が一番訳が分からないのです。

 この人、やたら無口でだんまりを続けているかと思えば、急に明るくなってケラケラ笑いだしたり、踊りだしたり、かと思えば急にまた無口になったり、もうよく分からない! 誰が見ても心理を理解できないであろう、かなり特殊な性格になっています。

 しかし、本作は正直に言ってしまうと、そんなことはどうでもいいのです。主人公がそこそこ「……ヤッてるんじゃね?*1」と思えてしまうような性格だろうが、どうでもいいのです。

 普通の映画では、そんな性格の主人公なんて気になってしょうがないと思いますが、本作の場合は、そんなことがどうでも良くなるほど、他にもいろいろとおかしな事が起こるので、どうでもいいのです。

 一例を挙げれば、あるシーンでは

ウクレレから、突然、エレキギターの音がします」

「しかも、エレキギターの音がした直後で、普通のウクレレの音もします」

 あるシーンでは、こんな会話もあります。

「魚も人魚になるらしいわよ」

 

 え、魚も人魚になる? ウクレレからエレキギター

 訳が分からないと思いますが、実際、この映画ではそういう場面が出てくるんだからしょうがないのです。ツッコミどころは満載です。全てのシーンが説明不足すぎて「なんで、そうなったの? なんで? なんで?」と疑問符が亜光速で頭の上を駆け巡ることにもなります。

 しかし、それでも、本作はなんだか凄いのです。なんだか楽しいですし、なんだか最後は泣けます。かなり泣けます。訳分からないけれども、感情をワッと強く動かされるのです。

 アニメーションとしても、かなり凄い出来栄えで、冗談抜きでダンボのピンクエレファントパレードが10分に一回は出てくるくらいの内容となっています。なんというか、究極にフェティッシュで超現実的な、"感触"だけを追求したアニメーションでもって、湯浅政明監督が考えた「頭のおかしいアイディア」を、数珠つなぎにしている感じです。

 そういう意味では、本作は、湯浅政明監督がかつて参加した作品「ねこぢる草」に非常に似ています。ねこぢる草」は佐藤竜雄監督のOVA作品なのですが、あれも佐藤竜雄監督が思いついた「頭のおかしいアイディア」を逐一、湯浅政明監督に教え、それでイメージを作っていって、それらを数珠つなぎにしたものでした。

 ただ、ねこぢる草と比べると圧倒的に、本作は明るいのです。対極に位置するほどに明るく、楽しい作品となっています。

 

 楽しくて、どうかしているレベルで明るい分、余計に「作り手たちは、なにか*2でキマってたんじゃないのか」とも思えてしまうのですが……。

 そういうわけで、本作は、自分は大変に好きなのですが、それと同時に他人にはそう簡単にオススメしません。

 圧倒的に普通の人達は「夜は短し歩けよ乙女」を見たほうが良いです。アレも見て、マインドゲームも見て、それでも物足りないという人に、本作はオススメなのです。

*1:もちろん、ヤクを

*2:もちろんクスリ的ななにかで

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