映画感想:武曲 MUKOKU
恒例の手短な感想から
頑張ってるから、貶したくないのに…でも、糞だわ
といったところでしょうか。
正直、映画の作り手は誰も悪くないと思っています。
撮影や演出、脚本、細かい衣装に至るまで全てがかなりのクオリティで作られています。実際の剣道シーンも悪くありません。役者陣もまったく悪くありません。
それどころか、いつもどおり、ヤサグレた演技が上手い綾野剛はもちろんのこと、それとまったく張り合えるほどの立ち振舞と演技を見せた村上虹郎、どちらも素晴らしかったと思っています。前田敦子も悪い演技をしていません。むしろ、作品の基調に溶け込んでしました。
脚本も序盤などは、かなりテンポ良くまとめられていて、至って普通のやり取りで、ありがちな筋書きをなぞっているだけなのに、不思議と画面に惹きつけられてしまい、魅入ってしまうほどによく出来ています。
撮影も、映画としての美しい構図や絵を心がけた、こだわりの感じられるクオリティであり、感嘆することはさすがにありませんでしたが、悪いところは特に見当たらず頑張ったんだなぁと思わせるものでした。
演出も少し過剰すぎるところや、ちょっと機械的に感じてしまう変なところもありましたが、序盤の父親の髭を剃るところなど、思わず見ていてハラハラさせられるところがあったり、脇役の細かい演技にまでキチンと気を使っていたりと、ちゃんとリアリティを感じられるクオリティになっていました。
音楽もわずかに出てきたのみでしたが、これも悪くありませんでした。
特に序盤のラップシーンの音楽が素晴らしく――まあ、言ってしまえばモロにFlying Lotusそのものな出来なのですが*1、しかし、そもそもFlying Lotus系の音楽をここに持ってきたセンス自体が、優秀です。凡百の人ならば、ここにいかにもステレオタイプな、なんなら「チェケラッチョ」とか言い出すような音楽を持ってきかねないところですから。
ここまで、褒めるところがいっぱいあるのです。
素晴らしいところがいっぱいあるのです。
しかし。
それでも、本作はかなり見ていてつまらない出来です。これはもう一重に言って「原作がクソすぎる」と言ってしまって良いのでしょう。それ以外にまったく悪い箇所が見当たらないからです。
むしろ、これだけ優秀な人達が揃いも揃って、全力を出しまくってもなお、このレベルの出来に終止させてしまったのですから、罪と業の深すぎる原作だと言えるでしょう。
薄っぺらすぎる仏教への理解。どっかで見たような親子関係で、どっかで見たような人物が、どっかで見たような苦悩をするだけの内容。話のご都合で、いつの間にか登場しなくなる登場人物までいる始末。
「糞は磨いても糞にしかならない」ことを、よく証明したと言えるでしょう。