映画感想:機動戦士ガンダムNT
2018年11月公開の映画機動戦士ガンダムNTナラティブ予告編
恒例の手短な感想から
……まあ、これで良いんじゃね?
といったところでしょうか。
巷で一部の人が言うほどの傑作でもなく、かといって一部の人が言うほど駄作でもない、というのが本作に対しては一番妥当な評価なのではないでしょうか。
決して、つまらない作品というわけではなく、それなりに観客の興味を引き立てるような、思わせぶりな台詞や設定、人間関係がちゃんと序盤から描かれ続け、また(少なくとも、本作品内の筋書き単体に限って言えば)大きな破綻もないわけです。
なおかつ、戦闘シーンの作画などは目を見張るものがありますし、なにより、本作、音楽がなかなかに輝いた見事な出来映えではないでしょうか。物語の要所要所を音楽の素晴らしさがきっちりと盛り上げてくれているので、観客の高揚感や感情を引き出す、エンターテイメントとしては十分に良作といえるでしょう。
肝心のガンダム部分にしても、やり過ぎだろうと思う箇所はあるものの、過去の様々なガンダム作品をオマージュしたのだなぁと思わしきシーンが、いくつも挿入されており、そこまでガンダムシリーズの中で極端にはみ出た作品でもないと思われます。
少なくとも、ガンダムOOとか、あそこら辺のトンデモぶりと比べれば、十分にガンダムシリーズ内におさまっている内容だと言えます。
宇宙世紀ものとして見ても、そこまではみ出しているようにも思えません。
しかし、とはいえ、ところどころで出てくる、なんだか言ってることが中二病臭い、主人公たちの台詞回しの数々や、恐らく作り手があまり理解してないままいい加減に入れたと思われる、統計学と八卦がうんたらのよく分からない解説や、クラシックを鼻で歌いながら出てくる敵キャラに代表される「ほら、こんな設定や話を出せちゃう俺たち、大人だろ?」と言いたげな作り手たちの幼稚さ、スケールが大きい話のようで実は異常に矮小化しているテーマ性などが、気にならないと言ったら嘘になります。
そこはとても気になりますし、はっきり言って、その手の要素のせいで、この映画の完成度は損なわれていると言っていいです。
また、この話自体「あれだけ、ゴチャゴチャした話を進めておいて、最終的にやりたいことは、ただ、逆襲のシャアを焼き直してるだけって……」と言いたくなってしまう部分があるのは否めません。噂に聞けば、富野監督もこの部分に関して苦言を呈したとのことで、ガンダムを知っている人ならば、全員漏れなくこの点を気にされるのかなと。
それに個人的には、そもそも作り手の思想というか、根本的な考え方自体が「よくよく考えると、それって、ただの選民思想だよね?」という話になってしまっているのも、凄く気になります。
これは宇宙世紀ガンダムシリーズ全体に蔓延る問題で、もっと言ってしまえば、大元のファーストガンダムの時点で既に実は内包されていた問題点ではあるのですが、*2今回のガンダムは、特にそれが露骨に出てしまっている印象を受けます。
心が広くて、優しい、素晴らしい人じゃなければ、そんなにダメなんですか?
その考え方って、本当に良いことなんですかね?
というか、そんな考え方をしている時点で優しくもなんともないですよね?
僕には、他人のことをなにも考えていない、幼稚な考え方に見えます。
以上のように、本作、なんというか深く考えようとすると、なんだか引っ掛かる点が多すぎるのです。ただし、作品自体が悪い出来かというと、そうでもなく、むしろ、良く出来ているのが頭の痛いところなのです。
現実の場で、本作のような思想を言い出されたらブチギレ待ったなしの案件だと思いますが、言っても本作、所詮はエンターテイメントであり、フィクションであり、そしてただの映画なわけです。つまり、そこまでマジに受け取っても、どうしようもないわけです。
だからこそ、自分としては本作に対し「まあ、これで良いんじゃない? だって映画なんだし」という評価になるのです。