儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:美しい星


美しい星 - 映画予告編

 恒例の手短な感想から

人は選ぶが、心掴まれたら、もう最高

 といったところでしょうか。

 

 実のところ、今作、自分はそこまで大きく期待していませんでした。

 本作の監督、吉田大八氏は「桐島、部活やめるってよ」で、映画ファンの間で、その名を轟かせた監督です。ですが、イマイチ桐島、部活やめるってよ」以外の監督作品で、パッとしたものがありませんでした。

 個人的には「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」も「クヒオ大佐」も、全体的には良い出来なのに、最終的には「なんかなー」と言いたくなるところがあります。言ってしまえば「個性の押し売り」がうるさい、という評価がよくあっているのかもしれません。

 これは、最近の名のある映画監督ならば、全体的に当てはまることなのかもしれませんが。

 

 しかし、それでも本作「美しい星」は素晴らしい出来栄えです。いえ、むしろ、個性の押し売りがうるさい監督だからこそ、本作を素晴らしい出来栄えに出来たのかもしれません。ともかくとして、本作は見る人が見れば、ガッチリと心を掴まれてしまうであろう愉快な一作です。

 原作は宣伝にもある通り、三島由紀夫SF小説なのですが、非常に作品としては「逆噴射家族」や筒井康隆原作の諸作を思い出す、どこか懐かしささえあるような、往年の邦画を思わせる内容となっています。

また、リリー・フランキーの怪演を中心とした、各役者陣の演技も手伝っていることや、平沢進の音楽が大きくフィーチャーされていることもあって、今敏監督のアニメ映画を連想させる場面も多々あります。

 

 突然と、自分たちは火星人や金星人や水星人の生まれ変わりなのだと言い出した家族を中心に、次々と「本当に起こったのか起こってないのかよく分からんない」超常現象が起こり、様々な思惑が交錯していく内容は、ドラッグムービーと見紛う出来栄えであり、おそらく現在、映画館で上映されている映画の中では「夜明け告げるルーのうた」と並んで、作り手たちがキマってたとしか思えない一作でしょう。

 

 間違いなく、あの系統のトんでいる映画が大好きな方は、本作は相当に好きなはずです。自分としても、正直に言ってしまえば、あの「桐島、部活やめるってよ」よりも遥かに好きです。意味の分からないところも含めて、素晴らしい一作でしょう。

 もちろん、そういった「訳の分からないもの」を倦厭する方からすると、本作はだいぶつまらないものに感じてしまうかもしれません。

 

 ただ、本作は実のところ「極めてシンプルな話」をしていることに気づけると、そこまで「なにもかも、訳が分からない」という映画でもないと思います。

 まず、本作ですが――そもそも、原作の時点でそうなのですが――大抵の評において「政治的な皮肉が入っている」だのとか、「世の中の寓話化」だのとか語られることが多いように思いますが、むしろ、三島由紀夫という作家を考えると、それらは"賑やかし"として入れられていると考えるのが妥当ではないでしょうか。

 つまりは、ただ、小説の飾りとして入れられているに過ぎないのです。実際、皮肉の意も入れていたのでしょうが、そちらは本筋ではないでしょう。

 

 むしろ、本作の本質は、タイトルにハッキリあるように「美しい」にあるのです。

 三島由紀夫といえば、代表作である「金閣寺」でも分かるようにこの美意識というものにうるさい人でした。

 むしろ、うるさいどころではなく「世の中が忘れてしまった。世の中が失ってしまった"真の美しさ"というものを、自分はよく知っているのだ」と考えていた、そんな作家だったと言っていいでしょう。

 

 こう聞くと、この映画を見た方はハッとする方も多いのではないでしょうか。

 そうです。実のところ、この映画で行われていた数々のやり取りは「その人が信じている美しさ」の競い合わせに過ぎないのです。

 [自分はこれが美しいと思っている、あいつはこれが美しいと思っている、どちらが真の美しさなのか]という、ただそれだけの話をしているのです。

 

 だからこそ、自分はこの記事の冒頭で「個性の押し売りがうるさい監督だからこそ、素晴らしい出来栄えに出来た」と書いたのです。この映画が風刺しているのは、実は環境問題でも、経済でもなく、自意識過剰な社会なのです。

「自分が世の中の誰よりも、誰もが気づかない美しさを感じているのだ」という、過剰な自意識を持つ人々、そのものを風刺しているのです。

 実はそういう意味では、本作、アレハンドロ・イニャリトゥの「バードマン」に極めて近い作品です。

 

 

 果たして、彼らは本当に異星人であったのでしょうか。

 彼らの信じる美しさに真相はあったのでしょうか。

 それは、少なくとも、この記事を書く自分にはよく分かりません。

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