映画感想:五日物語 ~3つの王国と3人の女~
恒例の手短な感想から
寓話好きにはたまらないぞ、これ!
といったところでしょうか。
五日物語ーー知らない人も多いでしょうが、この物語は、とてつもなく寓話やメルヘンの歴史にとって重要な一冊の一つです。なにせ、グリム兄弟がこれを参考にして、グリム童話を作り上げたと言われているほどですから。
事実、この本には読んでみると「あれ?この話は、幼い時にどこかで聞いたことがあるぞ」と思ってしまうような話がたくさん入っています。ですからこそ、寓話などのジャンルが好きな人にとっては、堪らない本にもなっているのです。
その五日物語から3つの、比較的有名な話を抜き出して再構築した上で映像化する、と聞けば、それなりに寓話等を愛好している自分も、見逃すわけにはいきません。……首都圏でも、本作はたった数館しか上映されないため、少々遠出をする羽目になりましたが。
本作は果たして、わざわざ遠出をしてまで見に行くほどの映画だったのか。
結論から言ってしまうと「価値はあった」と断言できます。久しく見なかった素晴らしく作り込まれたファンタジー映画がそこにはありました。
欠点がないわけではないのです。まず、最初に言ってしまうと、この映画は「中途半端に有名な寓話」のみで、話を作り上げすぎです。最初の数分こそは「どのように話が展開するのだろう」というワクワクがあっても、しばらくすると「これ、あの話じゃないか」とふと気づいてしまって、落胆を覚えてしまいます。
しかも、有名な寓話3つをわざわざ、錯綜させて作ったのも映画として、あるいは物語として斬新な効果があったかというと……。まあ、辛うじて、三つの話ともに「女性の持つ願望」という共通点があり、そこをテーマにしていることは読み取れます。なので、この構成は完全に無駄だとも思いません。
が、しかし、それにしても、もう少し工夫が必要だった気がします。
映画的には、このように話の構成上に散見される欠点がある代物なのです。
ただ、あえて言いますが、これらの欠点はこの映画にとっては、ある意味どうでもいいものです。この映画の価値は「テーマ」や「構成」にあるわけではないからです。この映画の素晴らしさはそこにはないのです。
この映画の素晴らしさは、「描写」と「美術」にあります。
まずなによりも、ファンシーな、いかにもファンタジーめいた、ふわふわとしたカワイイものなどが、この映画には一切登場しません。そして、その代わりに、寓話や童話などにあった、残酷な描写や過酷な描写などを、限りなくファンタジーさを保ちながらもリアルに感じられるよう、表現を置き換えているのです。
例えば、「怪物の心臓を取り出す場面」では、曖昧にごまかしたハート型の何かではなく、鼓動しているリアルな血管のついた心臓を取り出していたり……そういったように、寓話・童話の「文章や、あるいはデフォルメ化されたイラストによって、ぼかされていた表現」を「実際ならば、こうなるんだ」と暴いていっているのです。
だからこそ、とても素晴らしいのです。大人が見ても、まるで「そういう話が、本当に、この世界に現実として、史実としてあったのではないか」と少しだけでも思わせてしまうようなリアリティがあるのです。そして、リアリティがあるからこそ、寓話の時点では「ただの教訓話」でしかなかったはずの物語に、感慨が生まれてくるのです。
単純な善悪ではない、寓話に含まれている「複雑な人間模様」をより強く感じ取ることができるのです。おそらく、この映画を鑑賞した人の大半は「何が良いことで何が悪いことなのか」をよく理解できなかったはずだと思います。
単純に「こいつが良い」「こいつが悪い」と決めてスッキリしたいのだけれど、無理だったはずです。スッキリしようとしても「しかし、こいつのここは、果たして良いことなのか?」「この人は、本当に悪い人なのか?」という疑問が拭えなかったはずです。
それほどに深い味わいのある映画になっている、ということなのです。
この味わいが、映画の作り込まれた美術や映像や描写から生まれていることは明白です。おそらく、CGもマペット等の小道具・大道具も両方を駆使しているであろうこの映画の美術ですが、出来栄えは素晴らしいです。ギレルモ・デル・トロはもちろんのこと、ジム・ヘンソンなどと比べても劣るようなものではありません。
美術だけを目当てに見に行っても、お釣りが十分に来るレベルです。画面を見ているだけでも、触っている感触がするかのようです。この感触こそ、ファンタジー映画に求められているものでしょう。
本当に素晴らしい映画でした。