儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:アナと雪の女王2


『アナと雪の女王2』- 予告編

※ネタバレ全開です。

 恒例の手短な感想から

子供が大人になるための物語

 といったところでしょうか



 自分は一作目のアナと雪の女王について、物語の雑な作りにガッカリしていたクチなのですが、その自分からすると本作は極めて良い出来であるように感じました。一作目のダメだった点などをキチンと改善し、正統的なファンタジー映画へ昇華させているのは見事と言えるでしょう。

 

 巷では、本作の最後「アナとエルサが別々の国で過ごしている」という描写で終わることについて賛否があるようですが、この作品ならば、むしろ、あのオチにしないほうがむしろ変でしょう。

 逆に「姉妹が暮らしているままが良かった」と言っている人たちは、本作の物語を全否定していることに気づいてほしいと思います。



 なぜなら、本作は「モラトリアム的な青年期から、きちんとした立派な大人になること」がテーマの映画だからです。

 

 不思議に思いませんでしたか。本作でオラフがやたらと「大人になったら」「大人になったら」となぜか大人になることを意識したセリフを連呼していることに。いえ、連呼どころか、歌パートでもオラフは「大人になったら」という歌を歌っています。

 つまりオラフは大人になりたがっているわけです。

 

 クリストフは導入の時点で、アナに結婚を申し込むことを心に決めており、作中でも事あるごとに、アナにプロポーズする機会を伺っています。そして、毎回毎回なにかに邪魔されてプロポーズは失敗するという流れを繰り返していました。

 現代社会でも、そうですが、昔の欧州などでも結婚というものは、大人になるための通過儀礼の一つとして捉えられてきました。その結婚を、つまりは大人になる決意を固めているクリストフまでいるわけです。

 やはり、クリストフも大人になりたがっているのです。

 

 オラフもクリストフも「大人になりたい」という話をずっとしているのです。

 

 そして、最後にエルサです。冒頭からずっと謎の歌声に惹かれていて、妹たちがいる城を出て声の元へ向かうべきなのではないかと悩みつつも、それを家族に打ち明けられず、妹たちと暮らしているという状態でした。

 物語のクライマックスで明かされるように、謎の歌声の正体は、水が記憶していた母親の歌声でした。それに惹かれていたということは、つまりエルサは自らの母親みたいな存在になりたいと感じ始めていたということです。

 

 そう。エルサ自身も「大人になりたい」と感じていて、そんな自分の気持ちと葛藤していたわけです。

 

 そんな序盤でアナ一人だけが「いつまでも、みんな一緒で、みんな同じ」という話をしています。つまり、アナだけが、まだ大人になろうと思っていないわけです。

 実際、何度も自分から離れていこうとするエルサに、アナは「どこにも行っちゃダメ」と駄々をこねていますし、アナはちょいちょい相手の気持ちが読めていない発言をして相手を困らせたりしています。

 

 アナだけが、まだ大人になろうと思ってないのです。

 

 言ってしまえば「いつまでも実家ぐらしで良いのかと悩み始めている姉」「そろそろ、結婚したいなぁと思っている恋人」がいる状況で、「今までとずっと同じで良いじゃないと言い出す妹」がいる――そういう前提の物語がアナと雪の女王2なわけです。

 

 そういう前提の物語ならば、当然のように話も「大人になる」ことがテーマとなります。

 特に本作が「大人になる」物語であることを象徴しているのは、物語中盤でアナとエルサの両親の死をアナとエルサが見るシーンクライマックス直前でオラフが死んでしまうシーンが描かれていることでしょう。

 

 どちらも死と直面させられる描写であり、通過儀礼的な描写であることは明白です。しかも、ただの死ではなく「親の死」と「オラフ*1の死」です。通常の通過儀礼的な物語よりも、本作のほうがよっぽど強い意味で「大人になる」物語になっている事がわかります。

 

 

 そして、実際、本作の物語は親の死と直面したことで、エルサが「大人になる」覚悟を決めてアナと袂を分かち、オラフが死を迎えたことをきっかけに、アナが「大人として」目覚め自分の王国を犠牲にしてダムを壊す決意を固めます。

 

 アナと雪の女王2は「大人になること」を描いた物語なのです。



 そして、大人になったからこそ、アナとエルサは最後、別々に暮らすようになるのです。

 逆にこの物語を経てもなお、一緒に暮らしていたらそれこそ台無しでしょう。「いつまでも一緒に暮らすというアナの価値観が幼稚だ」という話から始まっている物語なのですから。

 

 このように、本作は通過儀礼的な物語として非常に良く出来ており、この手のファンタジーが好きな自分からすると、一作目よりも遥かに好感を持てる素晴らしい映画に感じました。

 

 そもそも原作の「雪の女王」自体が、そういう通過儀礼的な成長譚を寓話にしている物語*2なので、原作へのリスペクトという意味でも過不足ないです。

 

 また、映像表現やイマジネーションに、ジム・ヘンソンの人形劇をオマージュしているところが見られるのも良かったです。まあ、全体的に「作り手の人たち、全員、ゼルダの伝説ブレス・オブ・ザワイルドに激ハマりしたんだろうなぁ」と思える描写が多すぎじゃないかとも思いましたが。

*1:作中でのオラフは、かなり分かりやすく幼稚さがあるキャラクターです。作中でもっとも空気が読めず、意地っ張りで、自分勝手で、実際オラフ自身も自分が幼いことを自覚しています。特にオラフはアナと序盤からつきっきりであり、言ってしまえばオラフは「アナの幼稚さ」を象徴するキャラクターなのです。それの死とはつまり、アナが幼さから脱却することを意味します

*2:harutorai.hatenablog.com

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