儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

2月に見た映画

 お久しぶりです。管理人、ハルトライです。

 自分の親族の葬祭等でしばらくブログの更新が空いておりましたが、だいぶ落ち着いたため、当ブログの更新を再開いたしたいと思います。

 今後も当ブログへのご愛好をよろしくお願いいたします。

 

 さて、2月見た映画のまとめは以下になります。

・七つの会議


「七つの会議」予告

・劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>


「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」本予告第二弾 | 2019年2月8日(金)全国ロードショー

・メリーポピンズ・リターンズ


「メリー・ポピンズ リターンズ」本予告編

・実録 私設銀座警察

実録・私設銀座警察 [DVD]

実録・私設銀座警察 [DVD]

 

 ・華麗な関係

華麗な関係 [DVD]

華麗な関係 [DVD]

 

 

以上、5本です。下旬から映画を見る暇すらない状態だったので、少ない鑑賞本数となっております。今月も、一体、何本映画が見れるか見通しはあまり立っていません。

 

「実録・私設銀座警察」は2月に亡くなられた、名監督・佐藤純彌氏の"知っている人なら、絶対に知っている"実録傑作映画です。佐藤純彌監督、自分の中では「新幹線大爆破の監督」という印象はあまりないです。どう考えても、こっちの方が遥かにインパクトがありますから。

映画感想:劇場版シティーハンター〈新宿プライベート・アイズ〉


「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」本予告第二弾 | 2019年2月8日(金)全国ロードショー

 恒例の手短な感想から

あの時代を切り取って、2019年に張り付けたような快作

 といったところでしょうか。

 

 これが本当に20年以上も隔てて作られた新作なのだろうか、と誰もが驚愕したことだと思います。ここまで、昔のシティハンターそのまま、昔の北上司そのままのテイストで、今のシティハンターを描くことが出来るのかと。

 それくらい、本作シティハンターは、80年代終わりから90年代初頭にあった、この手のコメディアクション作品の良さと悪さの全てがよく出ている作品だと言えます。つまり、悪く言ってしまえば、論理や考証を、テンポとドデカイ設定と人間ドラマで強引に押し流していくご都合主義とも言えますし、良く言ってしまえば、観客に深く考えさせないよう工夫を凝らした度量の大きいスタイルとも言える、あの感じです。

 

 久々のシティハンター新作は、驚くべきことに、あの感じをそのまま発揮しているのです。冗談抜きで、この映画の作り手たちは20年前からタイムスリップしてきたのではないか、と疑ってしまうほどに、本作はなにもかもが、あのままなのです。

 もちろん、本作定番のキャラクターたちが、本当にあのままのノリでスクリーンに映っているのは言うまでもないですが、それ以外にも初登場シーンで、思いっきりポケットに手を突っ込みながら壁走りしている冴羽獠や、誰がどう見てもターミネーター2の丸パクリじゃねーかと言いたくなるショットガン発射シーンなど、細かいところを見ても本当に枚挙に暇がないのです。

 話の内容に至っても、細かいギャグの殆どがエロギャグで、作り手に向かって「このクソ親父どもが」と言いたくなってしまうところもあれば、大筋の方は大筋で、冷静に考えたら「いや、そうはならないだろ」と突っ込みたくなったり「防弾だからって台詞で入れとけば問題ない……わけあるかぁ!!」と一家言吐いてみたくなってしまう、雑な辻褄合わせなどもあったりして、本当にあの時代の空気を2010年代という下地に転写してしまったような、脚本となっています。

 挙げ句に、前述のショットガン発射シーンは「これ、ひょっとしてわざとやってるんじゃないか?」と疑いたくなるタイミングでバンクシーンとして再利用されていたりなど、古めかしいアニメ映画のテクニックも、詰め込まれたりしていて、実はアニメーションの面でも、どことなく懐かしみを覚えるようなものとなっています。

 

 本当にありとあらゆる箇所が、昔にタイムスリップしている作品なのです。

「悪いところまで、あの時代のまま」という評は普通の作品ならば、悪評となってしまうかと思います。しかし、この作品の場合は、むしろ好評と言えるでしょう。明らかに本作は、そういったあの時代の悪い面も含めて、「あの時代の懐かしさ」として顧みようとしている作品であることは明白だからです。

 

 若干、ズレたたとえになりますが、クエンティン・タランティーノ映画でわざと昔のジャンル映画っぽく、下手な撮り方や下手な編集を入れようとするようなものです。あれに野暮なツッコミを入れてもしょうがないですし、むしろ、そことクエンティン・タランティーノ的な映画センスの掛け合わせから出来る奇妙さこそが一番楽しいものでしょう。

 

 同じように、本作もまた、昔懐かしいあの感じと「言っても2010年代なんだな」と感じられる部分との奇妙な掛け合わせに面白さがあるのも事実です。

 例えば、敵の用いている兵器がこの上なく現代的で、なおかつ、それに対する一般人たちのスマホを掲げて「かわいいかわいい」連呼する姿もまた極めて現代的なのです。が、別のシーンでは、なぜか人々がビアガーデンで酔っぱらって、のんびり外の景色を眺めながら涼んでいたりするのです。

 この時代観をごった煮してしまっている奇妙キテレツさ!

「時代が昔なのか今なのか全然分からん!」と叫びたくなる、この可笑しさです。

 これが、そもそもシティハンターという作品にあった荒唐無稽さとよくマッチしており、いかにもシティハンターらしいオチの付け方や人間ドラマの描き方などの妙技、そして上述した作品そのものから、ずっと発せられている懐かしさと相まって、本作がなんとも楽しいのです。

 自分としては、本作にとても満足しました。

 

映画感想:七つの会議


「七つの会議」予告

 恒例の手短な感想から

歌舞いてるよ、これ、超歌舞いてる

 といったところでしょうか。



 この映画ほど、各映画サイトで公開されている場面写真や、断片的な予告編だけではつまらなそうに見えてしまう映画もないでしょう。キャストの一覧や、主演である、野村寛斎の演技等々、「映画として、それをやって本当に面白くなるのか?」と疑問に思わざるをえない要素が随所に見えているのが、断片だけ見ても明らかでしたから。

 しかし、本作、実は結構面白い映画です。

 それも予告編などで見えた「映画として、面白くなるのかな、それ」と疑問に思えた要素のおかげで、むしろ映画として面白くなっているとも言える出来であり、本作は映画の奥深さを感じ入る一作とも言えるでしょう。

 

 本作、出演する役者たちの演技が「この演技をつけた人は、頭がおかしいのか」と言いたくなるほど過剰なことになっていますが、むしろ、その過剰すぎる演技こそが、本作の肝の演出と言っていいくらいです。

 予告編を見た段階でも、そして、キャスト一覧を見た段階でも、誰でも気づいたであろう、野村寛斎の歌舞伎全開で、大仰な、馬鹿馬鹿しささえ感じさせるほどに大袈裟な演技--あれこそが、本作を独特な味わいの作品にしてしまっているのです。

 

 本来ならば、本作のような大きな企業の闇を暴いていく映画は、どうしても、どんよりとした陰鬱な空気を覆いがちなのですが、本作は、そこを歌舞伎的で、形式的な型にハマった演技をさせることで、観客に「おとぎ話のような、どこか現実を象徴化させた物語」であるような印象を与え、陰鬱な空気を緩和させることに成功しています。

 

 早い話が、大袈裟な演技というものが、観客たちがこの物語に没入しすぎないように、物語を一歩退いた視点から見れるように調整させる効果を放っているのです。

 

 また同時に、そもそもこの物語自体が持っている細かいアラを誤魔化すことにも成功しています。

 冷静に考えると、この映画で描かれている会社の構造は、現実的に考えると若干奇妙なことになっているのですが、*1それも、形式的に描かれている本作ならば、「まあ、あくまでこの映画は、ドキュメンタリーみたいなリアルな企業の闇の話ではなく、こういうことがあるよねって戯画化された話がしたいんだろうしなぁ」と納得がいくのです。

 

 実際、クライマックスの御前会議シーンなど、全登場人物をまるでウェス・アンダーソン映画のように、横一列に並べて撮影していたりと、明らかに作り手もそういう「戯画化された話」に本作を落とし込みたいのだろうという意思が感じられる演出、撮影を行っており、これは意図的にやっていることだと思われます。

 そもそも、それ以前に、主役陣に歌舞伎役者と、及川光博を選んでる時点で、どう考えたって意図的にやってるとしか思えません。この人たちを勢揃いさせて、形式的で大仰な演技以外のなにをやる気なのか、と言いたくなるキャスティングですから。

 

 また、本作はそうやって戯画化をはかった上で鑑賞してみると、とてもリアリティを感じる物語であるのも事実です。実際、企業が行ってしまう不正のだいたいは、大枠では本作のようなことが起こっているのは間違いがないのです。

 例えば、最近ニュースになった出来事で言えば、スルガ銀行の諸問題などは、第三者委員会の報告書を読むかぎり、作中の東京建電で不正が起きた流れと大枠では同じと考えていいでしょう。

 

 だからこそ、最後、エンドロールで主人公が長々と垂れる演説にも、ある程度首肯できるものがあるのです。

 もっとも、あのエンドロールの演出は、映画としては若干余計な演出でもあるので「これはどうなんだかなー」と、頭を抱えてしまう部分でもあるのですが、それでも、言っている内容に、なかなか左右にバランスの取れた主張ではないかと感服できるのは、上記の演出方針によるものが大きいのでしょう。

 正直、この大仰な演出方針で固めた本作ならば、あの「普通なら、駄作になりかねないエンドロール演出」も多少は許されるような気もします。

 

 少なくとも自分としては、この上手くいくか分からない演出・演技プランを最後まで押し通して、面白い映画に出来た作り手を誉めたいと思います。

*1:例えば、作中のような巨大規模のグループ会社で、作中のような問題が出てきたときに、なぜか経理部が話に関与して、監査部や審査部にあたる部門が一切関与しないのは、かなり変な話です。普通は作中で経理がやっていることは、経理の仕事ではなく、監査がやる仕事のはずです。

1月に見た映画

・天使たちのビッチ・ナイト

・ 阿部定~最後の七日間~

・シュガーラッシュ:オンライン


ディズニーキャラ共演!『シュガー・ラッシュ:オンライン』日本版予告編

クリード:炎の復讐


『クリード2』予告編 (2019年)

がっこうぐらし!


映画『がっこうぐらし!』予告編(楽曲使用版)

・ワンピース ねじまき島の冒険

ワンピース ねじまき島の冒険
 

・ アントボーイ

アントボーイ(吹替版)

アントボーイ(吹替版)

 

 ・ビデオゲーム The Movie

ビデオゲーム The Movie(字幕版)
 

 

以上、8本になります。正月なので、ちょっとピンク映画も鑑賞しました。……どっちも映画としては糞でしたが。

あと、ビデオゲーム The Movieは問題児ですね。内容がゲームをひたすらに褒め称えて、いろんなゲーム映像を間に挟んで、大して詳細も追わないままざっと歴史を追うだけのもので、うーん…と。

ワンピースに関してはノーコメント。

映画感想:がっこうぐらし!


映画『がっこうぐらし!』予告編(楽曲使用版)

 恒例の手短な感想から

ちゃんと面白かったよ。

 といったところでしょうか。

 

 個人的には、こういう作品こそが、一番、自分のような映画ファンの見る力を試されているなぁとよく思います。こういう作品に文句をつけるのって、難しいようでいて、ものすごく簡単なことですから。単に自分の偏見を全開にして映画を観ればいいのです。

 そして、雑に「普通」とか「つまらなくはない」とか、なんか分かっているようなことを言ってしまえばいいだけなのです。

 

 だからこそ、キチンと観ている人と観ていない人の差が明確に現れてしまう映画でもあることでしょう。本作、がっこうぐらし!は残念ながら、完璧な出来の作品ではありません。色々とチャッチい部分があるのも事実でしょうし、色々と緩い作品でもあります。

 所詮、アイドル映画だから、と言いたくなってしまう面もありますし、また、全体的な作品のテーマがわりとベタで「え、突飛な設定のわりに、普通のテーマだな」と言いたくなる作品でもあります。わりと出落ちのアイディア一発で話を引っ張っている面もあります。

 

 ただ、だからといって、この作品を「面白くない映画」であるかのように評してしまうのは、非常に勿体ないと思います。この映画は、意外と細かいところで、ちゃんと映画を面白くするためのツボをおさえて作っています。

 例えば、本作、気づかない人ならば、映画を見終わっても気づかないくらいに、しれっと張ってある伏線の張り方、あるいは「何を観客に見せて何を観客に見せない」という取捨選択のしっかりしているカメラワークや、不穏さを醸し出すためにシーンを切り替えるホワイトアウトを若干長めにするなどのちょっとした編集上の工夫など、細かいテクニックがかなり的確に使用されているのです。

 この細かいテクニックによって、本作がかなり突飛な設定の、下手すれば観客の感情移入が離れてもおかしくない映画であるにも関わらず、ちゃんと観客の感情を離さない、面白い出来になっています。

 

 また、ベタなホラー演出やストーリー、登場人物たちの葛藤等々も、小出しで考えられた順番やタイミングなどで提示されていくために、ちゃんと観客が惹き付けられる内容になっています。

 前述した、作り手のテクニックとの相乗効果で、無意識に観客はこの映画が放っている世界観に引きずり込まれている人も多いことでしょう。

「いや、引きずり込まれてないから。あんな安っぽい死体とか見てもなんとも思わないって」と、恐らく、今この記事を読んでいるあなたは思っているかもしれません。しかし、はっきり言いますが、この映画終盤の、結構リアルに造形された焼死体の山を見ても平然と「安っぽい死体」とか言ってしまえている時点で、どう考えても、あなたはあの作品の世界観の中に引きずり込まれています。

 

 このように実は本作には侮りがたい部分もある上に、全体的な面白くするためのテクニックが巧みなこともあって、作品全体としては「結構、面白い作品」になっています。少なくとも「ちょっと今月見たい映画を見尽くしちゃったなぁ」という映画ファンに「じゃあ、これ見てよ」と本作を薦めるくらいには、見て損がない映画です。

 

 思わぬ、掘り出しものを見つけました。

映画感想:クリード 炎の宿敵


映画『クリード 炎の宿敵』特別映像

 恒例の手短な感想から

 本当に新人監督が撮ったの?!これ?!

 といったところでしょうか。

 

 本作、かなり面白かったです。

 ロッキーシリーズや、前作のクリードとは違い、かなり無名の新人監督に任せたということで、多少なりとも奇をてらったりする可能性もあるのではないか、と思っていましたが、その不安に反して、本作はかなり王道の手法と、王道の演出が用いられており、新人監督がここまで堂々とベタベタな演出を用いてくるかと感心する出来となっております。

 

 特に感心したのは、この映画の序盤です。

 

 え、そんなに素晴らしい序盤だったかな?感心するような出来だったかな?と映画を鑑賞された方は首を傾げたかもしれません。

 そうです。そんな出来ではありませんでした。しかし、だからこそ素晴らしいのです。

 この映画の序盤は、わざと素晴らしくないように作られています。観客に「なにが話の本筋で、なにが話の脇道なのか」をはっきりと理解させるために、この映画は序盤をあえてつまらないように描いているのです。そのあえて、つまらない序盤にする、テクニックと計算高さが実に素晴らしい作り手じゃないかと自分は感心したのです。

 

 あえて盛り下げるテクニックが遺憾なく発揮されたのは、序盤のクリードがチャンピオンとなるシーンです。このシーンで使われている話を盛り下げるための演出テクニックの数々は、教科書にしてもいいほどです。

 普通であれば、クリードがチャンピオンになった時点で――前作からのファンであれば、なおのこと――物凄く気分が高揚してしまうことだと思います。普通ならば、このシーンが映画のラストになってもおかしくないのです。

 しかし、今作では、そこは話の主軸ではありません。だから、そのシーンをあえて盛り下げる必要があるわけです。その後の「本当に主軸にしたい話」をちゃんと盛り上がる話にするために。

 

 そのために、この映画では巧みに「観客を拍子抜けさせるように仕組まれた」演出が、序盤で畳み掛けるように入れられています。例えば、「試合中に一切、クリードの視点からのカットを挟み込まない」や「重要な場面で、極めて論理的にあえて無音にする」など細かく細かく様々なテクニックで、観客の気持ちがクリードの試合から離れるように仕組んでいます。

 

 この時点で自分はかなり感心しました。

 そして、「ここまで計算して観客の気持ちを映画にのめり込まないようにコントロールできる作り手ならば、逆に、観客の気持ちを映画にのめり込ませるようにコントロールすることも可能なはずだ」と、確信していました。

 結果として、自分の確信は当たっていました。見事にこの映画は、脚本で演技で撮り方で演出で観客の気持ちを巧みにコントロールしていくのです。

 あるときには、パンチの打撃のテンポに合わせて、音楽を流し、気分を高揚させ、またあるときは、主人公の悲劇を観客と同じように画面から眺めている視点から写し、歯痒い思いをより倍増させてきたり――物語の悲喜のレールに、観客たちが見事に乗ってしまうのです。

 

 そして、終盤のこれでもかと、ベタベタなタイミングでベタベタに流される、あのメインテーマ……普通の映画なら、これをやってしまうと寒いことになってしまうのですが、ここまで観客の気持ちをコントロールしている映画だからこそ、本作ではこのベタベタな演出がむしろ様式美のような、素晴らしい王道演出に様変わりしています。

 

 ここまで計算高い演出を堂々とやってのけた、ティーブン・ケイプル・Jr監督、この手腕なら、クリード以外の映画でもかなりの手堅い技量を見せてくれるのではないでしょうか。今のところ、日本では、彼の過去作を見ることが出来ないのが少し残念です。

映画感想:シュガー・ラッシュ:オンライン


映画「シュガー・ラッシュ: オンライン」日本版予告 第2弾

 恒例の手短な感想から

なんだこの俺得映画!最高!

 といったところでしょうか。

 

 

 今まで散々にディズニー映画への批評を書き、なんなら、世の中のパブリックイメージにあるディズニー像は大きく間違っていると厳しく書いたことすらある自分ですが……いや、本当に、なんなんだ、この映画は!

 

 ほとんど、自分の為にあるような映画じゃないか!

 

 本当にここまで、自分が今までの映画を通じて、散々に言ってきたディズニー像をディズニー自身が体現してしまうとは驚きです。もちろん、自分のブログがディズニーに読まれていた、とは到底思っていないのです。

 言うなれば「あ、やっぱりディズニー社内でも、自分と同じようなことを考えている人がいたんだ。しかも、長編映画が一つ出来るほどに」という驚きがあったのです。

 

 この見事にパロディとブラックジョークにまみれ、場面場面で不気味ささえも兼ね備えている本作には、自分が求めていた“ディズニーらしさ”がよく溢れているように思います。

 自分の言うディズニーらしさとは、つまり、ディズニーの黒い一面と言っても良いでしょう。

 

 ダンボでピンクエレファントパレードを流し、子どもを酩酊させようとし、バンビで母親の死をショッキングに描き、子どもの怯えた涙を誘った、そんなディズニー映画にある――「ただの子供向け映画」では片付かないような――サイケデリックだったり、恐ろしかったり、シニカルな笑いを誘ってきたりする、そんな一面です。

 おそらく、世の中の大半の人にとっては意外に思われるかもしれませんが、本作のような、ブラックジョークなどをやってしまうのも、オールドなディズニー作品では、たまに見られるものでした。そして、本作のクライマックスやダークウェブに見られるような、不気味な敵キャラクターの描写なども、実は結構往年のディズニー映画にはよくある描写で、コアなディズニーファンの間では"恐ろしすぎて"語り草になっているシーンもあったります。

  中には、ブラックジョークのやりすぎで、ディズニー自身が半ば封印してしまったような状態の作品まであったりします。*1

 

 そういった、ディズニーの黒い一面がとてつもなく凝縮されて、表に出てきた作品――それが本作、シュガーラッシュ・オンラインなのでしょう。

 

 おかげで本作は、なんというか、良い意味でなんとも酷い作品なわけです。

 どれくらい酷いかと言うと、まったく脈絡もなく、唐突にかなり昔のTVシリーズ・怪鳥人バットマンのパロディが挿入されたりするレベルです。

 おそらく、日本の観客の大半は「そんなパロディどこにあったの?」と思われるかもしれませんが、結構、あからさまにあります。*2

 

 もちろん、それだけに飽き足らず、インターネットミームの文化を大量にパロディしまくり、皮肉を入れまくり、次々と「分かる人には分かる」ブラックジョークに変え、更にはデッドプールもびっくりするレベルの巨大なメタギャグまでぶち込んでしまっているわけです。

 本作、まるでグレムリン2のようです。

 おそらく「これが本当にディズニーで作られた映画なのか」と驚かれた方も多くいることでしょう。こういう映画は、イルミネーション・エンターテインメントや、ソニー・ピクチャーズの映画がやることではないのか、と。

 

 しかし、前述したように、本作はインターネットをパロディにし、唐突なバットマンオマージュが入り、スターウォーズのクローン兵たちが現れ、ディズニーらしくない暴力的なゲームを舞台とし、それに対し、ディズニープリンセスたちはちょっとしか出てこないような作品なのですが、それでも、とても本作はディズニーそのものをよく現しているのです。

 

 そして、間違いなく、ディズニーにしか出来ない映画でもあるのです。それは――邪推かもしれませんが――本作の内容が意図的か、偶然か、同時にジョン・ラセターを現しているようにも見えてしまうことからも明らかです。

 

 本作のラルフ……正直に言ってしまって、どこかディズニーの女性社員から、過度なスキンシップで嫌われていたジョン・ラセターの存在が重なるように作られていませんか?

 実際、ジョン・ラセターは、この作品の制作に前半までしか携わっていなかったとのことで、この映画はジョン・ラセター退社後に完成されたフィルムであることは、事実なわけです。

 ラルフはクライマックスで、成長し、ヴァネロペを手放すことを選びます。それは「セクハラの訴えを受けて、退任したジョン・ラセター」という男の写し絵であるのではないでしょうか。

 

 そういった点も含めて、非常に、本作は自分にとって、感銘と感慨が深い映画でして、まさにシュガー・ラッシュ:オンラインは、俺得映画と言って過言ではないでしょう。

*1:ある時期から急にDVDに収録されなくなった、「谷間のあらそい」なんかは、その典型例です。「谷間のあらそい」は、一言で言ってしまうと「リア充爆発しろ」という陰キャ・ディズニーの気持ちがこの上なく現れている作品で、最初からオチまでブラックジョークしか無いという、トンデモナイ作品だったりします

*2:そして、あからさまにあるわりに、なんでパロディされているのか、一切観客の誰にも分からないんですよね、これ。ディズニーと昔のバットマンTVシリーズ、ビタ一関係がありませんから。たぶん本当に作り手が好きだから入れただけなのでしょう。

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