映画感想:シュガー・ラッシュ:オンライン
恒例の手短な感想から
なんだこの俺得映画!最高!
といったところでしょうか。
今まで散々にディズニー映画への批評を書き、なんなら、世の中のパブリックイメージにあるディズニー像は大きく間違っていると厳しく書いたことすらある自分ですが……いや、本当に、なんなんだ、この映画は!
ほとんど、自分の為にあるような映画じゃないか!
本当にここまで、自分が今までの映画を通じて、散々に言ってきたディズニー像をディズニー自身が体現してしまうとは驚きです。もちろん、自分のブログがディズニーに読まれていた、とは到底思っていないのです。
言うなれば「あ、やっぱりディズニー社内でも、自分と同じようなことを考えている人がいたんだ。しかも、長編映画が一つ出来るほどに」という驚きがあったのです。
この見事にパロディとブラックジョークにまみれ、場面場面で不気味ささえも兼ね備えている本作には、自分が求めていた“ディズニーらしさ”がよく溢れているように思います。
自分の言うディズニーらしさとは、つまり、ディズニーの黒い一面と言っても良いでしょう。
ダンボでピンクエレファントパレードを流し、子どもを酩酊させようとし、バンビで母親の死をショッキングに描き、子どもの怯えた涙を誘った、そんなディズニー映画にある――「ただの子供向け映画」では片付かないような――サイケデリックだったり、恐ろしかったり、シニカルな笑いを誘ってきたりする、そんな一面です。
おそらく、世の中の大半の人にとっては意外に思われるかもしれませんが、本作のような、ブラックジョークなどをやってしまうのも、オールドなディズニー作品では、たまに見られるものでした。そして、本作のクライマックスやダークウェブに見られるような、不気味な敵キャラクターの描写なども、実は結構往年のディズニー映画にはよくある描写で、コアなディズニーファンの間では"恐ろしすぎて"語り草になっているシーンもあったります。
中には、ブラックジョークのやりすぎで、ディズニー自身が半ば封印してしまったような状態の作品まであったりします。*1
そういった、ディズニーの黒い一面がとてつもなく凝縮されて、表に出てきた作品――それが本作、シュガーラッシュ・オンラインなのでしょう。
おかげで本作は、なんというか、良い意味でなんとも酷い作品なわけです。
どれくらい酷いかと言うと、まったく脈絡もなく、唐突にかなり昔のTVシリーズ・怪鳥人間バットマンのパロディが挿入されたりするレベルです。
おそらく、日本の観客の大半は「そんなパロディどこにあったの?」と思われるかもしれませんが、結構、あからさまにあります。*2
もちろん、それだけに飽き足らず、インターネットミームの文化を大量にパロディしまくり、皮肉を入れまくり、次々と「分かる人には分かる」ブラックジョークに変え、更にはデッドプールもびっくりするレベルの巨大なメタギャグまでぶち込んでしまっているわけです。
本作、まるでグレムリン2のようです。
おそらく「これが本当にディズニーで作られた映画なのか」と驚かれた方も多くいることでしょう。こういう映画は、イルミネーション・エンターテインメントや、ソニー・ピクチャーズの映画がやることではないのか、と。
しかし、前述したように、本作はインターネットをパロディにし、唐突なバットマンオマージュが入り、スターウォーズのクローン兵たちが現れ、ディズニーらしくない暴力的なゲームを舞台とし、それに対し、ディズニープリンセスたちはちょっとしか出てこないような作品なのですが、それでも、とても本作はディズニーそのものをよく現しているのです。
そして、間違いなく、ディズニーにしか出来ない映画でもあるのです。それは――邪推かもしれませんが――本作の内容が意図的か、偶然か、同時にジョン・ラセターを現しているようにも見えてしまうことからも明らかです。
本作のラルフ……正直に言ってしまって、どこかディズニーの女性社員から、過度なスキンシップで嫌われていたジョン・ラセターの存在が重なるように作られていませんか?
実際、ジョン・ラセターは、この作品の制作に前半までしか携わっていなかったとのことで、この映画はジョン・ラセター退社後に完成されたフィルムであることは、事実なわけです。
ラルフはクライマックスで、成長し、ヴァネロペを手放すことを選びます。それは「セクハラの訴えを受けて、退任したジョン・ラセター」という男の写し絵であるのではないでしょうか。
そういった点も含めて、非常に、本作は自分にとって、感銘と感慨が深い映画でして、まさにシュガー・ラッシュ:オンラインは、俺得映画と言って過言ではないでしょう。