映画感想:プーと大人になった僕
恒例の手短な感想から
まさにプーさんらしい話
といったところでしょうか。
まず、本作について何よりも言いたいのは、実は本作、「プーと大人になった僕」が原作の者である、AAミルンの思想をよく反映させた一作となっているということです。大抵の人は驚かれると思いますが、本作はその見た目とは裏腹に「とてつもなくプーさんらしい一作」となっているのです。
嘘だろ、と思われる方も多くいることだと思われます。
「大人となり、いわゆる最近で言うところの社蓄となってしまったクリストファーロビンが、ボッロボロで、しわがれたおっさん声のプーさんと出会う」なんて、まるでちょっと前に流行ったテディべア映画のTEDのような内容ですし、それらを鑑みて、「きっと、本作は原作のプーさんから、かけ離れた、大人向けに作り直されたプーさんが本作なのだろう」と思ってしまう方も多くいるのではないでしょうか。
しかし、それが違うのです。おそらく、上記のような誤解をしてしまった方は、元々の「くまのプーさん」がどういう作品であったかをご存じないだけなのです。
実のところ、「くまのプーさん」は一見すると子ども向けに作られた作品のように見えて、その実、「大人が自分の中に隠してしまった子供心」に対して、訴えかけようとしている作品です。
「くまのプーさん」は、他の作品で言えば「星の王子さま」などの作品と、かなり本質は近い作品です。
くまのプーさんの原作者であるAAミルン自体も――現代的な視点では異常に見えるほどに――幼少時の空想や幼さゆえにあるものの貴重さに重きを置いており、そういった「柔軟で豊かな空想力を持つ幼少期」「それを失ってしまう成長の悲しさ」を描いた作品をいくつも書き残している作家です。
「くまのプーさん」もそういった作品の一つであり、後にディズニーによって作られたくまのプーさんの初長編アニメーション作品「くまのプーさん 完全保存版」も、その思想をかなり反映させた内容となっております。
ここまで書けば、大抵の人が察すると思いますが、本作はまさにそんなAAミルンの原作や、元々のディズニーアニメの「くまのプーさん」の底にあった思想を、分かりやすく掬い上げてきた作品なのです。
本作のクリストファーロビンは、戦争を経験し、現実を経験し、仕事に追われるうちに徐々に、幼少時の大事なことを忘れていきます。それは、元々、本当はAAミルンやウォルトディズニーが「くまのプーさん」を通じて、考えを訴えたかった当時の大人たちと一致するキャラクター像となっています。
そんなクリストファーロビンが、再びくまのプーさん――つまり、幼い頃の自分の思い出と出会うことで、疲れきっていた心身を癒し、歪んでいた自分を治していく作品が、本作なわけです。極めて、AAミルンやウォルトディズニー的な思想を色濃く反映させた作品と言えます。
作中で描かれるプーさんたち、100エーカーの森の様子も、かなり原作に忠実であり、プーさんたちも、実在感を持てるように作ってあり、本作が原作をとことんまでリスペクトした作品であることは明白です。
「お馬鹿なプーさん」と笑いながら、プーさんの世話をするクリストファーロビンの姿は、原作ファンはもちろんのこと、原作を知らない人たちにも「無邪気な頃の自分」を思い起こさせてくれることでしょう。
若干、クライマックスだけが強引な展開でとってつけたように終わってしまうのが、残念なのですが、それ以外の魅力が大いにある良い作品でした。