儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:逆光の頃


高杉真宙、葵わかなが共演 映画「逆光の頃」 予告編

 恒例の手短な感想から

感想屋の完敗!魅力を文章で伝えることが出来ない!

 といったところでしょうか

 

 小林啓一監督のことはご存じない方も多いと思いますが、実はディープな映画ファンの間では既にかなり高い定評を持っている映画監督です。

 

 いかにすごい定評を持っているかというと、処女作「ももいろそらを」の時点で、世界各地の新鋭監督・インディーズ監督向けの映画祭で受賞するわ、絶賛を浴びるわというトンデモナイレベルでの定評を持っており、挙句、二作目の「ぼんとリンちゃん」はラジオで山本晋也監督のお墨付きで紹介され、MCの伊集院光まで大絶賛したという、もう各方面で出せば賞賛を浴びてしまうという、そんな高すぎる定評を持っている監督なのです。

 

 実は、当ブログが一番初めにレビュー記事を書いた映画も、実は小林啓一監督の「ももいろそらを」であったりします。二作目の「ぼんとリンちゃん」は、当ブログの2014年の年間映画ベストテンで一位にしました。

 そうです。自分も小林啓一監督の大ファンです。

 そのドキュメンタリックなカメラワークや芝居、ある種日常系のアニメなどにも通じる、独特な空気感などを醸し出す演出、そして、その空気感の中で見せていく、絶妙にギスギスしたりする人間模様など、全てがもう大好物すぎて堪らないのです。

 

 そんな小林啓一監督が、今回はタナカカツキの漫画「逆光の頃」を映画化すると聞いたときは、なんとも不安で楽しみな気分になりました。特に原作である「逆光の頃」を読んだ後はなおさらでした。

 「逆光の頃」ーー失礼を承知でいいますが、自分はこの漫画をまったく知りませんでした。小林啓一監督が映画化すると知って、初めて知ったクチです。

 そして、予習として読んでみたのですがーーまあ、なんというか、端的に言ってしまって非常に時代を感じる漫画でした。「あぁ、90年代くらいに、こういうなんかフワッとした漫画、どの国でも流行ってたよね」という漫画なわけです。正直、それ以上でも以下でもない印象が強い漫画でした。

 逆光によって誰なのか分からない状態と、中学生の主人公が、周りの人間をーーもっというと自分さえもーーなんだか誤解している状態を掛けて、そういう成長期の曖昧な心理状態の頃を「逆光の頃」としている漫画なのですが、まあ、発想としてはありがちで初めて読む漫画なのに既視感がすごいなと。

 

 そのため、小林啓一監督がどこまでこの漫画を映像化出来るのか、楽しみで不安になっていたのです。

 今までの小林啓一監督作品は、実は日常系な雰囲気を兼ね備えながらも、結構、登場人物の性格が多少極端だったり、話の筋書きや設定自体が面白そうなものだったりと、そもそも話からして面白くなるであろうことは想像できたのです。

 しかし、本作は違います。原作の「逆光の頃」は、ハッキリ言ってタナカカツキ氏の独特の絵がなければ、かなりアレな作品になってしまいかねないほど、話自体は既視感の塊です。

 つまり、純粋に小林啓一監督の力量が問われていたのです。

 こんなシンプル過ぎる物語にもなってないような物語の中で、いかにどこから魅力を引き出せるかーーその手腕が問われていたと言えます。

 

 まあ、結果、この映画は「小林啓一監督がやはり、トンデモナイ才能の、トンデモナイ手腕を持った監督」であることを見事に証明してしまったわけですが……。

 

 ともかくとして、この映画は凄いです。映画本編自体は、原作以上に断片的な描かれ方をされており、ともすれば、原作以上に話は薄くなっています。映画の冒頭や序盤では「いやいや、大丈夫か。小林啓一監督」と思ってしまうほどなのです。

 しかし、そうやって「大丈夫かよ」と思いながら、じっと画面を見つめているうちに

……見つめているうちに……気づくと、この映画をじっくりと魅入っている自分に気づいてしまうのです。

 一体、何が胸を打っているのかも分からないまま、どうでもいいような話を、なぜか夢中で見つめている自分に気づいてしまうのです。そして、そんな自分に気づいた頃から、全てのカットを絵葉書のような美しい構図とライティングで彩っている撮影技術に圧倒され、「この映画は一体、なんなんだ」と混乱しながら、とにかく感動してしまうのです。

 それはまさしく、逆光の頃にいる、思春期の学生のように。

 

 本作は、比較的短い尺の映画なのですが、その尺の間はずっと夢の中にいるかのような感覚がするのです。実際、他の観客たちもそうだったのか、エンドロールを流し終えてからしばらくするまで、誰もがぼーっとしていました。

 逆光を見せられたように、みんな、フワフワと自分が何をしているのか分からなかったのです。映画が終わったあの一瞬間だけは。

 なにが、どう素晴らしくてこんなことになっているのか、今、自分は文章にしたいのですが、まったくそれを文章にすることが出来ません。というより、文字にして伝えようとすると絶対に歪んで伝わってしまうほど、繊細な感覚なのです。

 この映画が放っている魅力は、それほどに特異でした。

 

 相変わらず、役者への芝居の付け方も上手いですし、主題歌の「CEREMONY」ーーNew Orderの名曲をカヴァーしたものなのですが、なんとこれが、Yes But Noという、Sound Cloudのバンドの曲が使用されている*1という斬新な試みも素晴らしいです。そして、また、この主題歌が本編とよく合っていること……。

 

 小林啓一監督の最新作ということもあり、かなり期待と不安の入り混じった中で鑑賞したのですが……いやー、なんということでしょう。自分の高すぎる不安と期待の、遥か上の雲を飛び越えていきましたよ、小林啓一監督は!

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