2019年映画ランキング
明けましておめでとうございます。
年が明けましたので、今年も昨年の映画をランキング形式で振り返っていきたいと思います。
10位 見えない目撃者
自分、実はホラー映画が大の苦手なのです。*1そんな自分でも認めざるを得ません。どう見ても傑作です。まあ心の底から怖い演出が多いのです。
しかも、どれもこれも、びっくり箱ではありません。本作の殺人鬼の怖さは、例えるならノーカントリーの「シガー」です。
それが邦画で描けてしまったということに驚愕します。
9位 アナと雪の女王2
前作はランク外でしたが、本作は文句なくランク入りです。実にファンタジー映画らしく、同時に今っぽい展開も織り交ぜられており、いろいろと不安定だった前作とは打って変わって安定した素晴らしい作品になっていたと思います。
ただ、ちょっと中身があまりにも「ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ザ・ワイルド」っぽすぎて「え、ディズニー、それでいいのか?」とも思ったので、その点だけランクを下げました。
モアナといい、最近のディズニーは任天堂っぽくなりすぎです。
8位 殺さない彼女と死なない彼
小林啓一監督の最新作ですが、記事でも書いたとおり、ここまで最適な采配もないでしょう。日常系的な空気感を持ちながらも、日常らしくない日常をコミカルに描いていく小林啓一監督の手腕も相変わらずで、文句のない一作に仕上がっています。
ただ、今年は他の作品でも演出が素晴らしいものが多すぎでした。
7位 シュガーラッシュ・オンライン
なぜかネットでの評判は悪いそうなのですが、個人的にはこの映画が大好きです。ディズニーの悪ノリと黒い一面が表側にドロっと出てきたと言っても過言ではありません。おかげでまあ出てくるギャグがどれも酷いこと、酷いこと……。
だから、最高なんです。
6位 クリード 炎の宿敵
本作も納得の順位でしょう。演出力が抜群に素晴らしい監督が、全力でロッキーを撮ったらこうなるということをよく体現しています。おかげでとにかく本作は、熱いし、目が離せないのです。この手のスポーツものだと傑作であっても、中盤でダレたりすることもあるのですが、本作はそれもありません。
それほどに絶妙な演出が各所でさり気なく施されているのです。
5位 この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説
え、ベスト5がこれなのかと驚かれた人も多いかと思いますが、実際のところ、それくらい自分はこの手のコメディアニメが大好きなのでしょうがないです。世代としても、こういうコメディに囲まれて育った世代ですし、そういった意味でもこの作品は高い順位に入れたいと思っていました。
作品自体も非常に素晴らしいです。おそらく本作だけを見た人でも十二分に楽しめるのではないでしょうか。それほどに片っ端から見ていて思わず笑ってしまう無茶苦茶な設定と、個性的な登場人物たちが繰り広げる意表を突いた展開の数々がとにかく楽しい作品でした。
4位 ジョーカー
惜しくもベスト3には届かない順位になってしまいましたが、全ては「永遠に僕のもの」があるせいです。間違いなく映画として傑作であり、正直、個人的には、近年のアメコミ・ヒーロー映画の中で一番に好きかもしれないというくらいに好きな作品なのです。
特に印象的なのは、意図的に「演出として、おかしなタイミングで編集したり、音楽で場面場面を消す」という伏線の貼り方です。最初は作り手の都合で、そのような演出がなされているのかなと思わせつつ、実はそれが伏線だったという若干メタ気味な伏線の入れ方は、かなり映画として斬新な手法であり、あれを思いついただけでも十分に素晴らしいと言えます。
が「永遠に僕のもの」を見てしまった後だと、正直、「いや、この作品ももっと行けるゾーンがあったはず」と思わされてしまうところもあります。なにせ、こっちは犯罪者に共感はするものの、犯罪行為そのものに美しさや犯罪者そのものに憧れる気持ちは、さすがに湧きませんから……。
3位 キングダム
ベスト3がこれというのも驚きでしょうが、実はそれほどに自分の中では本作に対する好感が高いのです。自分からしたら、単純に「エンターテイメントという形式の映画として、これ以上の作品なんて要らないだろう」と思うからです。アクション映画として、これ以上に上手い作品は今年ありませんでした。
ノンストップで見事に展開していく話と、原作のイメージを十二分に表現している美術、少年漫画らしい展開と、アニメみたいに重々しい武器を軽々振り回す美女の姿――全部を実写という形で体現できているなんて最高ではないでしょうか。
特にハリウッドですら「美女がちゃんとした格闘している絵面」を説得力を持って再現できた例は少ないのです。アメコミ映画にしろ、普通のアクション映画にしろ、大抵において、設定側で女性用のちっこい武器を用意させたりしてそこを回避するのが普通なのです。
しかし、この作品はそこを逃げませんでした。それだけでもベスト3にできる価値があると思うのです。
2位 グリーンブック
いろいろ迷ったのですが、ベスト2はこれにしました。個人的に、本作がテーマとして取り上げた「人種差別」という問題はこの後も様々な展開を見せていくと思っているからです。
最近(もちろん、未だに旧来的な露骨な人種差別もありますが)特にリベラル的なスタンスを示しているはずの人たちに潜んでいる「無自覚の人種差別」というものが、徐々に明かされてきていると感じています。*2
そして、本作「グリーンブック」は、まさにそこに対しての話もしている人種差別がテーマの映画なのです。感想記事でも指摘したように、本作は実のところ「反レイシストが完璧に気に入るような映画」としては作られていません。
主人公たちの黒人でもなく、白人でもない”人種”として存在している姿。そんな彼らが訴える「人種差別問題」の本当にあるべきゴールは、間違いなく今後必要な考え方になるでしょう。
1位 永遠に僕のもの
文句なしの2019年ベストワンでしょう。本作はこの映画をベストワンにしないで何をベストワンにするんだと言ってもいいほど強烈な作品です。なにせ、この映画を見ていると「あぁ、自分もカルリートスのように自由に生きて、犯罪を犯してみたい!」と思わされてしまうのです。ただ、サイコパスな殺人鬼が犯罪を犯し、殺人するだけの姿に「美しさ」や「格好良さ」すら感じてしまい、ついぞ「憧れ」すら抱いてしまうのです。
しかも、観客がなぜそんな感情を抱いたのか、観客自身も誰も理解できないし、説明ができないのです。
冗談抜きや、大袈裟な表現でもなんでもなく、本作ほど人間の価値観を根底から揺さぶってくる作品はないです。いかに人間の中に――いえ、この映画を見ている自分の中に狂った自分が存在しているのかを、この映画は丁寧に暴いていくのです。
ジョーカーより、よほどジョーカー的な映画だと言えます。とてつもなく危険で、とてつもなく魅力的な傑作。この映画を観れただけでも、2019年の映画には巨大な価値があったと言っていいでしょう。
以上がランキングになります。
2019年の映画全体を総評してみると「ガッカリさせられることが、多すぎた」という印象がちょっとあります。特にネットの「洋画ならば、ハリウッドならば絶対面白い」という色眼鏡を掛けている人たちやら評論家やらの色眼鏡全開の評価に反して、かなり洋画のガッカリ映画率が上がっているのが気になります。
もちろん、邦画の方も相変わらずな出来の映画は、やっぱりコンスタントに出てきているのですが、同時に数年繰り返し言っているように面白い作品もコンスタントに出てきています。
それと比すると――洋画は今までほどコンスタントに面白いものが作れなくなり始めているのかな、と。実際、2019年ランキングも半分近く邦画が締めています。必ず、それなりのクオリティを作ってくるディズニーアニメ映画を例外として省くと、なんと数が4:4で拮抗してしまいます。
若干、洋画の未来が気になり始めてきました……。