儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:三度目の殺人


『三度目の殺人』本予告 9月9日(土)公開

 恒例の手短な感想から

んー。ちょっと極論過ぎだなー。でも映画としては良作。

 といったところでしょうか。

 

 是枝裕和監督の中では、かなり意欲的な作品と言っていいと思います。

 本作、三度目の殺人はそれくらいに今までの是枝裕和監督作品からすると、かなり路線を変えた作品です。それまでの是枝裕和監督作品と言えば、どちらかというと日常的な人間模様の中で、どこか笑えたり、ゾッとする瞬間など、人間の心の有様を重点的に描いていくヒューマンドラマが主な作品ばかりでした。

 ですが、本作は殺人事件を主体とした、サスペンスになっています。もちろん、是枝裕和監督らしさが損なわれていることはないのですが、今までの諸作品と比べるとだいぶ異質な作品であることは間違いないと思います。

 

 作品の雰囲気も、前作「海よりもまだ深く」では島尾敏雄の小説を意識している様子が取れましたが、本作はどちらかというと、ドフトエフスキーとヘルマン・ヘッセを足して割ったような雰囲気が滲み出ており、明確に何もかもが違うと言えます。

 まあ、この路線変更自体は良いことでしょう。前作「海よりもまだ深く」は、結構、設定や話の筋書きが、今までの作品にやたら似ている部分が多く「もうネタが無いのかな」ということを伺わせる出来でしたから、路線変更も仕方ないのかなと。

 

 ただ、今までの是枝監督作品が好きな方は、少し合わないと感じられることもあるかもしれません。

 

 自分としても、あまりにもドフトエフスキーすぎるというか、ドーンととにかく暗い雰囲気なうえに、裁判の厳かな感じや、それに関連したテーマなどの出し方などから「いやー、なんか小説にしたら相当に古いなーこれ。古すぎてちょっとダサいなー」という印象を覚える部分もあります。

 意外と是枝監督、前作の「海よりもまだ深く」でもその気がありましたが、考え方がなんか古いんですよね。90年代とか2000年代っぽい考え方をしてしまう人なんです。2010年代からしてみると「いやいや、それちょっと極論すぎでしょう」という考え方をしてしまうのです。

 

 それはこの映画の「訴えたいこと」にもよく現れています。本作を鑑賞した人たちは、おそらく誰もが「え、こんな終わり方で終わるの?」と驚いたはずです。物語としてはだいぶ、消化不良というか、不完全燃焼のまま終わってしまう物語だからです。

 これは、明らかにあえてそうしています。

 この映画を見終わった後、おそらく、あなたはこう考えるはずなのです。「あの犯人はきっとこうだったに違いない。そして、この映画はこういうことを言いたかったに違いない」と。

 人によっては、この映画は裁判の理不尽さを訴えている話であるように感じるかもしれません。あるいは、卑劣な殺人犯にみんなが騙されている話であるように感じるかもしれません。あるいは、正しい人が過去の過ちのせいで理解をされない話であるように感じるかもしれません。

 とにかく、言えるのは人によってこの映画の解釈は千差万別になるだろう、ということです。

 

 そして、そのあなたがこの映画に対して「この映画はこうに違いない」と考えている姿ーーそれはまさしく、この映画に出てきた殺人犯に対しての、周りの人間たちの様相と一致します。

「あの人は絶対やったに決まっている」「やってないに決まっている」「あの人は自分を守ってくれたに違いない」ーー映画中の登場人物たちは、証言を二転三転させる殺人犯に対して、様々なことを考え、様々に「自分がそう思いたいこと」を彼に押し付けてきます。

 この映画の登場人物たちは「あいつはこういう殺人犯であってほしい」と思っていることを、ただ言っているだけに過ぎないのです。

 映画の最後に出てくる「あなたは器なんだ……」というセリフにも、それはよく現れています。

 

 そして、この映画もそうなのです。この映画も器なのです。

 「この映画に対して思ったことは、あなたがそういう映画であってほしいと思っているに過ぎない」ーーつまり、この映画はそういうことが言いたいのです。

 そして、この僕の感想も同じです。この映画で最後に主人公が「あなたは器なんだ」と言い放つと、殺人犯はこう答えます。

 「器ってなんですか?」

 つまり「器だと思うことさえ、器だと思いたい自分を表しているに過ぎない」ということです。

 

 で、自分からすると、こういうトートロジー的な何かで「だから真実なんて誰も分からないんだよ」と斜に構えるのが、まあ、ちょっと古いなと思うのです。

 確かに物事は、時にそうなってしまうこともあります。しかし、そればかりでもないでしょう。別に自分の言ったことや考えたことが、自分の思いや心理を表していない、「そう思いたいなんて思ってない」ことも多々あるわけです。

 

 まさに本作の訴えたいことは極論が過ぎるわけです。

 

 ただ、それでも本作は良い映画でした。なんだかんだ言って、是枝監督らしい細かい気配りの聞いた演出などは、相変わらずよく出来ています。特に主人公がだんだんと逮捕された殺人犯に共感していってしまう描写などは本当に巧みです。

 また、一体何が真実なのかまったく分からなくなっていく筋書きも、なかなか良かったかなと。*1

 

 前述のテーマも……まあ、ちょっと厳し目なことを書きましたが、一理ある事はあります。それも事実です。なので、普通に鑑賞していて、そこまで気になるものでもないのかなと。

*1:……ただ、最近、わりとこういう物語って、小説等々のメディアでありがちなんですけどね。

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