儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密


映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』 予告編

 恒例の手短な感想から

見事なアガサパスティーシュ映画

 といったところでしょうか。

 

 パスティーシュというのは、既存の探偵小説やミステリー小説などを模倣して作り上げる二次創作のことを指すのですが、まさに本作「ナイブズ・アウト」は、そのパスティーシュ映画にあたる作品だと言えるでしょう。

 実にアガサ・クリスティらしい、要素が多く散りばめられた作品であり、彼女が確立させたいわゆる「探偵もの」のフォーマットを上手いこと踏襲しながら、「探偵もの以外のアガサクリスティ作品」で描かれた要素を混ぜ、実に器用な手腕で一つの斬新なミステリー映画を作り上げています。

 

 そうです。この映画はパスティーシュ映画でありながら、若干、パスティーシュの域を超えています。

 アガサ・クリスティへのリスペクトに満ち溢れながらも、同時に彼女の作品を超えている内容にもなっているのです。

 

 本作品、序盤は撮り方から、話の構成から何もかも全てを緻密に”アガサ・クリスティ映画作品風に”仕上げており「あぁ、この映画はアガサ・クリスティ的な探偵ものなんだなぁ」という強い安心と信頼があります。

 たとえ、探偵役がジェームス・ボンドダニエル・クレイグだったとしても、それがノイズにならない程度には、キチンとアガサ・クリスティ風味を出すことが出来ているのです。いえ、むしろ、本作序盤のアガサ・クリスティ探偵もの風味な映像表現は、ダニエル・クレイグの紳士的な一面を引き出すことに成功しており「探偵としての説得力」すら帯びています。

 

 そして、そこまで高いクオリティで探偵ものを描いていきながら、中盤以降で徐々に同じアガサ・クリスティ作品でも、ノワール系のダークな作風が顔を出していくるところが、なんとも本作は素晴らしいのです。

 

 この映画の大胆な構成に自分は度肝を抜かれました。そして、同時にハッとさせられたのです。言ってしまえばポアロ」的な犯人を追い詰めるタイプの推理探偵ものと、ノワールが実は表裏一体の存在なのだということを、この作品はまざまざと見せつけているからです。

 

 その意味で、アガサ・クリスティは多彩な作品を作っているようで、実は同じ作品を作っていたのです。この視点を持って彼女の作品を鑑賞したことは、少なくとも自分にはありませんでした。

 

 ――つまり、本作はとても優秀な「アガサ・クリスティ評論」でもあるのです。

 彼女が執筆した一連の作品たちにある共通点を見出し、これらの作品にある本質的な部分を曝け出すことに成功しているのです。この時点でも、本作はとても優秀なパスティーシュ映画だということがよく分かります。

 

 もちろん、ただのパスティーシュではありません。

 本作はパスティーシュであると同時にパロディのコメディ作品でもあります。この点については言うまでもないでしょう。セリフの一つ一つにまで趣向を凝らし、伏線を張り、巧みに観客の心を惹きつけている本作の脚本はギャグもよく出来ています。

 

 この巧みなギャグセンスと、元ネタを丁寧にリスペクトした内容は、まさに「次世代のメル・ブルックス」といって過言ではありません。

 ここまでの見事な作品ならば映画館で見る価値は絶対にあります。

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