儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:1917 命をかけた伝令


サム・メンデス監督作!映画『1917 命をかけた伝令』予告

 恒例の手短な感想から

やはり、力業の見事な一作!

 といったところでしょうか。



 全編ワンカットという、映画好きとしてはとても興味をそそられる宣伝文句が踊っていた本作でしたが、実際の中身はその期待に応えるであったかというと……映画の内容のうち8割は期待に応える出来足り得ていました。

 逆に言うと2割ほど「え、この映画でそれをやったら興ざめじゃないの?」という箇所も存在しているのですが……。

 

 ともかくとして、本作「1917」は間違いなく戦争映画として、いえ、映画として斬新な出来であることは間違いないでしょう。

 やはり、なんと言っても白眉なのは宣伝にもある通り、全編ワンカットというその強引すぎる力業で成立させられた映画の内容そのものです。全てがワンカットということは「時系列を区切る」ことがないわけであり、つまりは「観客と映画の一秒の長さが常に一致している」ということでもあります。そのため、常に観客にリアルタイムが過ぎていく焦燥感・実感を味合わせることが出来るわけです。

 本作の「タイムリミットが刻々と迫る中で、最前線の戦場を駆け回る兵士」というシンプルな物語はまさにこの全編ワンカットという映像手法がぴったりと言っていいです。

 

 ……まあ、正直、本編を見たところ、全編ワンカットというのは「だいぶ盛った話」のようにも見えますが*1……ただ、とてつもない長さの長回しが使われているのは間違いなく、たとえ全編ワンカットが嘘だったとしても、映画として十二分に素晴らしいものであることは否定できません。

 

 その点については本作は間違いなくいい映画だと言っていいでしょう。そして、戦争映画としても、まったく悪くないです。

 決戦前夜の小康状態という戦場をリアルに描いていく本作には、戦争映画としても十二分な魅力があり、また戦争の過酷さというものを生々しく感じさせることも出来ています。

 

 もちろん、本作よりよほど戦争を上手く感じさせてくれる作品も勿論あります。ただ、本作の場合は戦争を感じさせるだけではないのです。同時に戦争のない社会での仕事だとか、責務だとか、そういったものにも通じる何かを内包しているのが特に素晴らしいのです。

 これは伝令兵という「人を殺しに行け」と直接命令されているわけではない兵士だからこそ、感じられる要素なのかもしれません。

 最初は上司の命令を受けた友人の付き添いで嫌々ながら伝令を届けようとしていた主人公が、様々な段階を経て自分の伝令を届ける任務を全うするのだという使命に目覚めていく姿は仕事の寓話のようでもあります。

 友の兄を助けるために、多くの人を犠牲にさせないために、必死で駆ける主人公の姿には人生の悲喜こもごもを感じられるのです。

 

 社会に出て人の役に立とうとしていると、大なり小なり、本作の主人公のように必死で駆けまわる瞬間は必ずやってきます。

 そんな瞬間を経験してきたであろう観客にとって、主人公はこの上なく感情移入しやすい存在なのです。

 実際、自分もこの点で非常に共感をしていました。

 最初は半ば人から押し付けられたはずの仕事を、最後は誰よりも自分が拘っている――そんなありふれた人生の縮尺に本作はなっているのです。

 

 ただ、本作は同時に残念なところも見受けられます。

 クライマックス少し前あたりから幻想的な描写が入ってしまうのは、さすがにその手の前衛的な映像が好きな自分でさえ戸惑いました。

 今までの「リアルな時間の流れ」を感じさせ「自分の人生に重ねてしまうリアルさもあった」内容からすると、前衛芸術のファンタジーのような照明とCGによる映像美は明らかに食い合わせが悪いのです。

 映画ではなく、自分事のように感じていた画面の中を、一瞬で「あ、これ、映画だったわ」と目覚めさせてしまう――言わば興ざめのシーケンスになっています。

 

 ここが無ければ、もっと良かったんだけどねぇ……という感想を抱いたのは自分だけではないはずです。

*1:何か所か「あれ?そこでカットを切り替えられるよね?てか、普通その撮り方はワンカットっぽい感じでカットを繋ぐときの撮り方だよね?」というシーンがあるんですよね……この映画

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