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儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:夜は短し歩けよ乙女


『夜は短し歩けよ乙女』 特報映像

 恒例の手短な感想から

ひょっとすると、原作を超えているかも……

 といったところでしょうか。

 

 以前から森見登美彦の代表作として、下手すると四畳半神話大系よりも更に世の中に知れ渡っていたかもしれない本作ですが、湯浅政明監督が映画化するともなれば、当然これは相当に面白い内容になっているはずだと確信していました。

 もちろん、湯浅監督といえば、アニメ版の「四畳半神話大系」を作り上げた人でもありますし、なによりも「マインド・ゲーム」という傑作アニメ映画を作った人でもあるからです。これは映画として、相当に面白い内容になるはずだろうと。

 ただ、ここまで面白い内容になることまではさすがに予測できていませんでした。

 というよりも、マインドゲームを見てからだいぶ時間が経っていたので、湯浅政明監督作品が、どういうふうに面白いのかを自分が忘れてしまっていたのかもしれません。この映画は、"アニメ映画における湯浅政明監督の面白さ"を再認識できる内容となっています。

 

 もちろん、あくまで森見登美彦の小説の映画化であり、話の大筋はほぼ小説に忠実と言っていいくらいなのですが、それでも本作の面白さは湯浅政明監督の力が大きいと思います。

 森見登美彦氏の小説は……なんというか、面白いのですけれども、同時に話がすごく軽いことが多いのです。

 もちろん、かなり独特の――大正浪漫的というか、パブリックイメージの明治を煮詰めたような――過剰に装飾された文体で構築された、摩訶不思議な(というよりもマジックリアリズム的な)小説たちは魅力もあるのです。

 が、同時に絢爛すぎる、言ってしまえば気取りすぎたキザのような装飾は、作品のテーマを酷くぼかしていて「え、結果、なにが言いたかったんだ?」「言いたいことはそれだけなのか?」と思ってしまうことがあるのも事実なのです。これが悪い方向に作用している作品もあるくらいです。

 事実、小説の「夜は短し歩けよ乙女」も、伏線などを張り巡らせた構成や、奇天烈な面白いイマジネーション、京都大学周辺という、そんなことが実際起こっているのではないかと思わせる、絶妙な舞台設定などがよく効いていると同時に、読み終わった後の「うわー、なんも得るものはなかったなぁ」感も半端ではない作品です。

 落語の小話で済むような話を、やったら長く説明されたような感慨を覚えるのも事実です。

 

 しかし、本作、映画版夜は短し歩けよ乙女」はそのような感慨はありません。むしろ、学生時代には誰もが一度は抱いたことのある「若さゆえの孤独感」のようなものが、実はこの「夜は短し歩けよ乙女」のテーマとなっていることが、よく分かるように提示されていて、見終わった後で「自分もこんなことを考えていた時代も合ったな」と懐かしめる――かつ、おそらく学生の方ならば共感できるであろう――良い物語に本作は仕上がっていました。

 前述の通り、ほとんど内容は原作に忠実になっているのです。

 多少、場面を提示する順序を変えた程度でやっていることは、間違いなく小説版夜は短し歩けよ乙女」と同じなのです。しかし、その場面に遭遇した時に覚える印象がかなり違うのです。

 特に、終盤のとあるシーンは、原作を読んだときには「酷くありふれた表現で、陳腐」「こういう、二束三文の描写で主人公を、ちょっとウジウジ悩ませて物語を解決させようとか、やっぱり森見登美彦の小説は軽いな」としか思えないのに、本作では、むしろ「ここまで強烈に陰鬱で、主人公の心の沼を底からひっくり返すような描写を、畳み掛けられると共感を覚えてしまう」「あぁ、自分もこういうこと思ってた時期合ったなぁ」と正反対の感想を抱いてしまうほどに、まったく、小説とアニメ映画で感触が違うのです。

 

 やはり、ここらへんはさすが湯浅政明監督といったところなのでしょう。本作を全体的に俯瞰した上でのテーマを見抜き、「この作品の、どこが一番表現をハジケさせるべきポイントなのか」をきっちり考えて、自らの得意とする"湯浅節"を使っているのです。

 そして、この湯浅節が、まあ本当に今まで話題になってきた湯浅政明監督の諸作品や、参加作品のアレコレを思い出してしまうような、"濃縮された湯浅節"で、だからこそ、夜は短し歩けよ乙女」のテーマもより一層に際立つというか……。

 元々、「マインド・ゲーム」などでも見て分かるように湯浅節は、奇天烈なイマジネーションの連続であると同時に、それが登場人物の心理状態を示すメタファーとしても捉えられるような描写が多いんですよね。*1

 それが濃縮している状態なので、まあ、画面の隅々まであらゆる表現が、登場人物の心をよく表しています。ここまで、本作が良い出来に仕上がっているのは、間違いなく湯浅政明監督の功績でしょう。

 そして、そんな本作は、湯浅政明監督の魅力を再認識できる、良いアニメ映画となっているのです。

*1:ここらへんは、同じ亜細亜堂出身のアニメ監督たち、本郷みつる佐藤竜雄望月智充などなども得意にしているので、ひょっとすると芝山努小林治の薫陶なのかもしれませんが

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