儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:万引き家族


【公式】『万引き家族』大ヒット上映中!/本予告

 恒例の手短な感想から

考えても、考えても

 といったところでしょうか。

 

 まさか、これほどに鑑賞後、黙り込んで深く深く考えてしまうような映画だとは思ってもいませんでした。カンヌ映画祭にて、最高賞を受賞した是枝監督の「万引き家族」は、確実に映画史に残る一作だと言えます。

 そして、是枝監督のフィルモグラフィーの中でも間違いなく、最高傑作と断じていい出来です。というより、こんな圧倒的な一作を作り上げてしまって、是枝監督は大丈夫なんでしょうか。是枝監督の映画生命が燃え尽きかねないほどの出来なのですが。

 是枝監督の作品は、本ブログでも度々取り上げていますが、最近、若干迷走気味だった是枝監督作品からすると、驚異的な作品です。モチーフや、演者、構図などはこれまでの是枝監督作品と、あまり変わらないというのに、本作は是枝監督作品の中でも、最も異様です。

 今までのような、「海よりもまだ深く」「歩いても歩いても」に代表される島尾敏雄的なテーマや設定などがありつつも、しかし、明らかに島尾敏雄の方向性とは異なっており、「三度目の殺人」のようなミステリー劇から哲学的な話へ入り込む話のようでもあり、しかし、それとも異なる方向性に仕上がっています。

 

 はっきり言って、今の世の中が"本作"を的確に批評することは不可能でしょう。

 実際、本作を取り巻く批評といえば「本作の肩越しに、ただ、自分の気に食わない人たちを撃ちたいだけ」のものばかりが並んでいます。

 

 例えば、とある記事では本作を「国粋主義への疑問を示した作品」などと書かれてあったりします。

 特段、今の世の中を批判するような描写を入れようとしていない、この映画の、どこにそんな奇天烈な解釈が挟めるのか、不思議でしょうがないのですが、それでもそう書いてあったりします。

 かと思えば、また一方では、本作を作った是枝監督を「日本の汚点を世界に示した」から売国奴だのなんだのと、文句を言う人たちもいます。

 どう見ても、フィクションにしか見えないほど、かなり特異で異様な"一家"の姿を描いた、この映画を見て、「これが日本の現実なんだ」などと思う人など、相当、頭のおかしい人だと思いますが、それでもそう書いてあったりします。

 

 だから、絶対無理でしょう。そんな記事がマジョリティーであるかぎりは絶対に無理でしょう。本作をちゃんとした評価で捉えることは不可能です。

 

 

 本作は、そんな話をしたい映画でないことは明白です。むしろ、本作は「何が何でも"そういう"話にしようとする人が多い、今の社会」に対して「どうせお前らは、分かろうとしないんだろ?」と挑発している映画だと言っていいです。

 

 事実、この映画は「嘘だろ!?」と言いたくなるほど、あまりにも唐突なタイミングでエンディングを迎えます。本作は全てを明確にしないまま、終わってしまうのです。いくつかの謎だけが提示され、いくつかの疑問だけが投げかけられ、そうして、話が終わってしまう。

「そっから、先はお前らが考えてみろよ」と言わんばかりに。

 飛んだまま、着地しないまま、映画が終わってしまうのです。

 

 言ってしまえば「安直」になることを、徹底的に本作は避けています。ハッピーエンドでも、バッドエンドでも、分かりやすいエンディングを迎えることを許していないのです。なぜなら、この映画で示されている話やテーマは、そんな簡単に切り捨てられるような話ではないからです。

 本作で描かれる「万引き家族」は正しくもあり、しかし、間違ってもいるのです。本作は、決して「万引き家族は、本当の家族よりも、正しい家族だ」などと言っている映画ではないのです。

 しかし、現実とはそういうものではないでしょうか。

 現実で、完全に間違っていることなどはありませんし、完全に正しいことなどもありません。しかし、では、間違いと正しさは存在しないのかというと、そうでもなく、部分的な正しい点と間違っている点というものは、確かに存在しています。なおかつ、時として「正しい点」と「間違っている点」は見分けるのが、酷く難しくもあります。

 

 それが現実なのです。

 

 この映画を見た人はどうしても考えずにはいられなくなるはずです。なにが正しかったのだろうか、と。考えても考えても、その答えが出ることは決してありません。

 

  胸が裂かれるような思いに苛まれ、どうしたらいいのか分からなくなることでしょう。しかし――いえ、だからこそ、本作は傑作なのです。考えても分からず、映画自体は答えを示してくれず、考えても考えても考えきれず、光のない泥の中を、もがいているような気分になってくることでしょう。

 まさに傑作だと言えます。

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