儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:孤狼の血


映画『孤狼の血』WEB限定特報

 恒例の手短な感想から

ミス・キャスト感、半端ないんだけど!これ!

 といったところでしょうか。

 

  映画を見た人の評判によると、本作、久々の本格的な実録もの映画ということで、気になって観てきました。はい。本作、確かにかつての実録もの映画の趣をかなり取り入れている一作と言って構わないと思います。

 もちろん、最近の映画でもヤクザ映画は、まだ僅かながら生き残っている状況ではあります。アウトレイジシリーズや、本作の監督、白石和彌が二年前に撮った「日本で一番悪い奴ら」などが代表的な例です。

 しかし、本作はそれら最近のヤクザ映画とは明確に一線を画するところがあります。

 それは、本作は「本当に古い実録もの映画の再現」を本気で狙っている作品だからです。カメラ、演出、演技、筋書き、それら全てが異様なほどに古く感じるように作られており、かつて斜陽になりつつあった映画業界で、威光を見せた実録ものというジャンルを回顧するような内容と言って過言ではないです。

 

 砕けて言ってしまえば、本作はこの上なく、かつてのヤクザ映画を完コピしにきている作品なのです。

 

 本作と比べると、アウトレイジも日本で一番悪い奴らも、現代的な映画の感覚が取り入れられている作品であることがよく分かると思います。それほどに、本作が採った演出の方針は、良くも悪くも懐古的なのです。

 このような作品が、シネマコンプレックスで普通に公開されているところ、時代も随分と移り変わったのだなぁと実感せざるをえません。まず、間違いなく、90年代、00年代では、こういった映画はシネコンで公開されることはなく、個人経営の小さい映画館が流すのがせいぜいでしたから。



 もちろん、そんなかつての実録ものを顧みた本作ですが、それが映画自体の出来に結実しているかというと、微妙でもあるのですが。

 まず……面白かったことは面白かったと明言しておきましょう。本作、つまらなくはないです。少なくとも、1800円払ってこれが見られるならば十分だと言えるクオリティなのは間違いないです。

 ただ、当たり前ですが、実録ものが流行った時代とほぼ息絶えている現在では、どうしても埋まらない溝というものがあります。

 

 まず、一番なんといっても無理が目につくのは、役所広司です。彼がヤクザ紛いのガラ悪刑事を演じること自体に、もうちょっと無理があるのです。当然、今までの役柄のイメージからすれば、役所広司は「いかにも役所広司っぽい演技」というものを抑えなければいけません。

 が、役所広司がこれをまったく抑える気配がないのです。おかげで、彼の演技がただの"ガラ悪刑事のコスプレ"にしか見えません。

 

 主役の演技でさえ、こうなってしまっているのですから、他も推して知るべしで、この「演じているというよりは、コスプレしてる感じ」──つまり、コスプレ感が本作に微妙に横たわっている問題点です。

 役所広司に限らず、あの人この人、どの人もコスプレっぽく見えてしまう瞬間が一回は必ずあるのです。特に男性陣のこれが酷くて、なんだか、絵面が間抜けに見えてしまったり、コント番組を見ているような錯覚に陥る場面も若干あるのです。

 まあ、当然と言えば当然ですね、一方の組を取り仕切る黒幕が石橋蓮司、その配下の組長が竹野内豊、対立する組の若頭が江口洋介では「お笑いのコントじゃねぇんだぞ!」と言いたくなるのが道理です。

 せめて、彼らがちゃんと「彼ららしくない演技」を徹底してくれれば感想も違ったと思いますが……。

 

 以上のとおり、本作のネックは「演技」です。

 それ以外にも筋書きが微妙に矛盾している点なども気にはなるのですが……許容範囲かなと。

 

 貶してしまった本作の「演技」についてですが、あえて言うなら、本作の松坂桃李の演技は「こいつ、意外と普段の甘い顔に似合わねぇ表情見せるなぁ……」と思わせるようなモノがありました。

 なにかの拍子に、ふっと顔から表情がなくなって、目が据わるあの感じは得体の知れない迫力があったなぁと。実はこの人、「マジ」な人なのかなと思えるなにかがありました。

 

 ただ、松坂桃李の役って「正義感溢れる、まだまだ青二才の新人刑事」のはずで、あんな正義にベクトルが振りきったサイコパスみたいな迫力があったらダメだろう、とも思いましたが(苦笑)

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