儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁


映画「オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁」本予告(60秒)11/15全国公開!

※今回はネタバレ満載のレビューです。

 恒例の手短な感想から

間違いなく、ヘンテコ映画

 といったところでしょうか。

 

 そうです。ヘンテコ映画。

 それ以外に表現のしようがない一作ではないかと思います。

 本作、日中合作でエベレストを舞台にした壮大なサスペンス映画という時点で、90年代くらいにあった、昔の邦画ーー例えば「ホワイトアウト」だとか、ああいった映画を彷彿とさせる面があったのですが、やはり、その想像を裏切らない出来になっています。

 

 観客の誰もが「なんじゃそりゃ」と心の中でツッコミを入れたであろうほどにヘンテコな描写が満載であり、本作は映像の比喩的表現にしても、台詞の表現にしても、話の筋書きにしても、全てが極端で大袈裟で大雑把なことになっています。 

 例えば、映画の冒頭で役所広司とヒロインが思いっきり雪崩に飲み込まれているのに、なんの説明もなく普通に次のシーンでは生還していたり、ヒロインがはくちょう座を見つめていると急に星が集まり巨大な白鳥となって、わーっとヒロインの周りを飛び回ったり、高所から突き落とされて頭を打ったヒロインがなんの説明もなく息を吹き返したり――全ての表現が異常に大袈裟で説明的でツッコミどころだらけという、真面目に見ているとだいぶ頭痛のする映画となっています。

 

 これらは「マジックリアリズム」と言い訳すれば高等な表現にも見えますが、ようは過剰な映像的説明とご都合主義のなれの果てであり、映画として到底誉められたものではありません。

 あげくに肝心の雪山登山に関しても、考証はいい加減で、民間救助隊に志願しているようなヒロインが普通に雪山で乾いた喉を潤すために雪を食べて、雪で顔を洗っていたり、エベレストの山頂付近で登場人物がどいつもこいつも大声張り上げているわ、と「せっかくエベレストを舞台にしたのに、この映画はなにがしたいの……」と絶句したくなるほどです。

 

 ひょっとすれば、この映画の作り手からすれば、ヒロインが雪を食べるくだりあたりは「それより前の高所からヒロインが突き落とされた時点で、実はヒロインは死んでいて、霊的な存在になっていたから雪を食べている」的なつもりで描いたのかもしれません。

 映画全体の描かれ方からすると、その可能性も若干仄めかされてはいるのです。

 しかし、この映画、前後のシーンではヒロインのために大怪我して「俺を見捨てて下山するべきだった」と号泣している同僚やら、ヒロインのために自ら命を捨てた役所広司がいるんですよね。

 ヒロインがとっくに死んでいるとすると、彼らの行動の意味って一体……?

 

 ヒロイン死んでる前提だとしても、やっぱり「この映画って何がしたいんだ……」という疑問はまったく解消できません。

 

 いえ、それどころか、そのヒロインのために命を捨てた役所広司でさえ、その前に殺されてる描写があるんです。その後、何事もなかったようにヒロインを助けているので、つまり「幽霊が幽霊を助けるために幽霊の自分を犠牲にして死んでいる」というわけです。

 全てにまったく意味がありません。

 狐に摘ままれていた方がマシなレベルで無意味です

 

 マジックリアリズムマジックリアリズムを重ねたせいで、本当に「この話って、結局なにがしたいの……?」という疑問が出てこざるを得ないのです。そして、この異様すぎるマジックリアリズムの重ねがけぶりに、真面目に考えれば考えるほど「結局、ただのご都合主義じゃねーか!」というツッコミがどうしても頭に浮かんできてしまうのです。

 

 そして、仮にもし、上記のヒロインと役所広司、幽霊説が間違っているならば、それはそれでこの映画がただ単に描写が杜撰な映画であることを示しているだけですし、どっちにしても「アレな映画」であることは間違いありません。

 

 もちろん、まったくつまらない映画ではないのです。一応、サスペンス部分のおかげで飽きることはないのですが、異常に多い愁嘆場の数々、謎の描写と投げっぱなしだらけの伏線描写に「絶対良い映画でもないな!」と断言できてしまうところが本当に残念な映画です。

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