映画感想:ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー
恒例の手短な感想から
これがスターウォーズだ!
といったところでしょうか。
アメリカでは大コケしていて、興行成績が惨憺たるものになっていたという、本作「ハン・ソロ」ですが――ハッキリ言って、これを大コケさせるとか今のアメリカ人はセンスが一ミリもない恥ずかしい人たちなんだなぁ、と言わざるを得ません。
これほど、見事にスター・ウォーズの魅力を引き出した作品はないでしょう。
少なくとも、エピソード7、ローグワン、エピソード8という一連のスターウォーズ作品と比較しても、最もスターウォーズらしさを醸し出している「これこそがスターウォーズだろう!」という観客の気持ちをよく汲み取った作品です。
いえ、それどころか、ジョージ・ルーカス自身が監督したエピソード6までのシリーズと比較しても、まったく遜色のないスターウォーズ然としたスターウォーズに仕上がっています。
本作は、ジョージ・ルーカスが見失ってしまっていた”スターウォーズ”という作品の面白さを、ちゃんと引き出した作品だと言えるでしょう。
スターウォーズ・シリーズの魅力は、ライトセーバーの振り回しや、フォースという超能力だけに宿っているわけではないのです。
スター・ウォーズの魅力とは、
1.細かい伏線や、ファンだけがクスッとしてしまうような描写などの細部
2.あるいは、西部劇や時代劇、ミュージカルなどの古典的な戯曲から引用した、活劇然とした筋書きやあらすじ
3.時代劇と西部劇に強く影響を受けたライトセーバー・レーザーガンなどのアクション
4.宇宙の舞台に繰り広げられる、荒唐無稽、奇想天外なクリーチャー・惑星・機械・景色などのイマジネーション
5.そして、それら全てを整える、スター・ウォーズ以前のSFにはあまり見られなかった、全体的な泥臭い雰囲気
この5つ、全てから作り上げられたものだと言えるでしょう。
そして、これだけ多岐に渡る様々な要素が組み合わさって、出来上がった魅力だからこそ、ジョージ・ルーカスでさえ、その魅力の本質を見失い、迷走していってしまったわけです。
その後も様々な監督たちが悪戦苦闘していましたが、どの監督も、上記5つのうち、どれかに魅力を特化させて「エピソード7」「ローグ・ワン」「エピソード8」という三つの作品を作り上げていっていました。
ジョージ・ルーカスの迷走ぶりを見ても明らかなように、5つ全ての魅力を拾い上げるとなると、至難の業ですから。
しかし、この映画はその5つ全てを拾い上げることに成功してしまっているのです。
この映画の出来は驚異的と言わざるを得ないです。なぜ、このような傑作を作り上げることが出来てしまったのか――それは、変な言い方になってしまいますが、本作を作る過程のいざこざで、まったく違うタイプの監督2組が関わることになってしまったのが、大きな要因だと言えます。
本作はどう見ても、途中で揉めて監督が交代してしまったことで、映画が傑作になってしまったとしか思えないのです。
当初、本作の監督は、クリス・ミラー&フィル・ロードという二人の監督コンビによって作られる予定でした。
確かに、本作を見てみると、いかにもクリス・ミラー&フィル・ロードコンビっぽい、今風な感覚で作り上げられた、大人にしか分からないヒドいブラックジョークや、巧妙な伏線が本作には散りばめられており、当初二人が監督する予定だったことがよく伺えるのです。
しかし、二人がディズニーと揉めてしまい、監督は交代。途中で、ベテランのロン・ハワードに監督が変わってしまうのですが――これもまたとても頷けるのです。
例えば、西部劇的な決闘の場面の、妙にゆったりしていて、これ見よがしで、しかし、なんだか妙に性急なところもあるカット割りや、クライマックスでヒロインの目の周りだけにライトを当てる演出など、そこかしこの演出が妙に古臭いのです。
明らかに上記部分はロン・ハワードによって撮られた場面なのでしょう。
この、クリス・ミラー&フィル・ロードの、今風な感覚で作り上げられている要素と、ロン・ハワードの古臭い感覚で作り上げられている要素――普通の映画では噛み合わなくて、いかにも「駄作」と呼ばれるものになってしまう要因でしょう。
しかし、本作では、むしろ、その2つがこの上なく、相性良く混ざり合っているのです。なぜ混ざり合ってしまったのか――その答えは、だいたい察しがつくと思いますが……。
そうです。この作品が、スター・ウォーズだからです。
スター・ウォーズのSF的な部分、イマジネーションの部分においては、クリス・ミラー&フィル・ロードの新しい感覚が良いアクセントになっており、なおかつ、スター・ウォーズの古典的な部分、アクションの部分においては、ロン・ハワードの古臭い感覚が良いアクセントになっているのです。
つまり、偶然にもスター・ウォーズという作品にとっては、監督が交代したことが良い方向へ作用してしまった――と、そう言えるのです。
実際、ディズニーと揉めて監督を交代したはずの、クリス・ミラー&フィル・ロードコンビも、ちゃっかりエグゼクティブ・プロデューサーとして、エンドロールにクレジットされていましたし、それくらい、作り手にとっても、本作は大誤算で上手くいった作品だったのではないでしょうか。
本当に、本作は奇跡の作品なのではないでしょうか。