映画感想:キングダム
恒例の手短な感想から
この堂々たる風格! 邦画も遂にここまで来た!
といったところでしょうか。
ここ数年、ずっとネットの誰がなんと言おうと、著名人がなんと悲観しようと、どう見ても邦画は駄作ばかりを産み出していた時期を脱し、回復傾向にあると散々に論じてきた当ブログですが、もう、この映画を見れば、いかに自分の言っていることが正しかったのかを誰もが認めざるをえないことでしょう。
本作はそれほどに凄まじいパワーを持った一作です。スターウォーズとか、ロードオブザリング等に並べることの出来る、見事なアクション大作――と称しても言い過ぎではないかもしれません。
本作、下手をすると日本のみでの成功では留まらない作品になるかもしれません。物語の舞台が昔の中国ということもあり、国外の観客にも、相当ウケがいいのではないでしょうか。この間の「ドラゴンボール超 ブロリー」のような、規格外の大ヒットを飛ばす可能性さえ秘めているような気がします。
そんなことさえ、妄想で思い描けてしまうほどに、本作はなにもかもが完璧でした。全編に渡って、殺陣が完璧を越えるレベルで完璧な殺陣を描けているのはもちろんのこと、それだけではなく、他の細かい様々なアクションにおいても、的確な描写が冴え渡っています。
例えば、主人公がトドメの技を使う演出で尋常じゃなく腕に力を込めるカットを挟み込んだり、戦闘の最中に主人公が次々と竹を伐り跳ばしていく描写を入れたりといった具合です。こういう細かいカットや、細かい工夫があるおかげで、一つ一つのアクションに強弱の説得力が生まれているのです。だからこそ、さっきまで勝てなかった相手に、主人公が勝つことにも説得力が生まれています。
こういう細かい工夫はハリウッドのアメコミアクション映画さえ、出来ていないことさえあるのです。それをほぼ完璧にやりきっている本作が、いかに素晴らしいのかがよく分かります。
そして、話の筋書きや台詞もよく出来ています。脚本の練り上げには原作者も参加しており、かなり映画の作り手同士で相談をして、骨を折って、丁寧に作り上げていったそうなのですが、実際それだけの出来の脚本となっています。特に本作は、話のテンポがとても良いのです。
無駄な時間経過の描写などは、基本的に全てポンポンと省いていく方針で話をつくっているらしく、「映画の時間は短く凝縮されていればいるほどいい」という考えを持っている自分からすると、その時点で既に本作への評価は高いです。
愁嘆場でもぐだぐだされることなく、ちゃっちゃと終わらせて、次の話に展開させているため、見ていて単純に心地がいいのです。
そして、なにより、語るまでもありませんが、本作をなによりも強烈に彩っているのは、原作を徹底的に再現しようと試みている美術と、そして、その美術に囲まれた俳優たちの堂々たる演技でしょう。この二つなくしては、本作は絶対にありえなかったはずです。
ファンにとっては恐らく、最も懸念事項であったであろう、この二つですが、本作はその懸念事項であったはずの二つがなによりの美点に昇華しているのです。
本作を鑑賞した誰もが思ったはずです。
まさか、大沢たかおが長澤まさみがここまでのことを出来る役者であったなんて、と。
既に方々で語り草となっていますが、大沢たかおも長澤まさみも今までの役者イメージを覆しかねないレベルでの強烈な転身を成功させており、実はその人自身に秘められていた「役者としての新しい可能性」すらも本作は掘り起こすことに成功しています。
もちろん、それ以外の主役陣も、どれを取っても演技が素晴らしく、特に吉沢亮の一人二役を演技だけできっちり演じ分けている姿はかなり印象に残りますし、その敵役を演じる本郷奏多の見事な悪役っぷりも光っています。
これだけ素晴らしい本作なのですが、その上、「さすが、あのアイアムアヒーローを撮った佐藤信介監督だ!」と言いたくなるほどに、本作は映画の終わらせ方が光っています。映画好きとしては「そう、その終わらせ方だよ! そこで格好良くバシッと締めてくれるのが、最高なんだ!」と誰もが言いたくなったのではないでしょうか。
少なくとも、自分はこの映画の終わらせ方はかなり好きです。
後腐れがなく、粋で良いシメでしょう。
始めから終わりまでぎっしりと傑作しかないーーそれが本作なのです。