映画レビュー:ロバと王女
誰からも尊敬される王様と、それに付き添う貞淑なお妃様がいました。娘は一人だけとはいえ、非常に美しい容姿をしており、王様は、誰もが羨むような生活を送っていました。
そんな絵に描いたような素晴らしい王様だったのですが、ある日、お妃様が病に倒れ、そのまま亡くなってしまいます。王様は、お妃様の死に際、お妃様と「もし、他の誰かと結婚するようならば、お妃様以上に美しく、気立ての良い女性と結婚する」よう、約束します。
お妃様が亡くなったせいで、国の大臣たちはお世継ぎのため、王様に次の女性と結婚するよう薦めます。が、王様はお妃様との約束を理由に、大臣たちの薦めを断ります。それから、大臣たちに「お妃様以上に、美しくて気立ての良い女性」を探すように命令しました。各地に美しいお妃様を探す大臣たちでしたが、しかし、お妃様以上に美しい女性など全然見つかりません。
いえ、本当は違って、実は、一人だけ王様のお眼鏡に叶うような美しい女性がいました。
それは美しい、王様とお妃様の娘でした。
極めて、”ぱっと見”がファンシーな映画だということは、前もって、警告していたいと思います。ファンタジーなものが苦手な方、アレルギーのように拒絶反応を示される方はそこそこ(女性、男性問わず)存在していると思います。そういった映画が苦手に対する警告として、前もってこれは記述しておきます。
もちろん、こういったお伽話を描いたファンタジー映画は、極めて多くありますし、その中の全てがファンシーに描かれているわけではないです。中には、泥臭さもあるようなリアリティを誇っているファンタジー映画や、少しグロテスクささえ含むようなものを描いたファンタジー映画もあります。
ただ、この映画はそういったものとは、一線を画し、明確なほどにファンシーかつ、綺麗な色彩で、映画全体が彩られています。最近の、アニメで言うならば、幾原邦彦監督のような印象を覚える人もいるのではないでしょうか。そういった美術がところ狭しと並んだ映画となっているのです。
青一色で染まっている召使いたちの様子や、空の色、月の色、太陽の色のドレスなどの綺麗なデザイン、ディズニー・アニメや絵本で見た、プリンセスの馬車とそっくり同じに作られている馬車。あしらわれた鳥の羽根など、本当に、夢の様な世界はまさにファンシーな世界そのものです。
話の筋書き自体は、この手のおとぎ話の定番、貴種流離譚となっています。事実、似たような話は、たくさんあり、ジム・ヘンソンのストーリーテラーにも、極めてそっくりな話は存在しています。言ってしまえば、お話自体は、変哲もないものです。
しかし、逆に言えば、こういったファンシーかつどこかシュールなところを含む、ファンタジー映画が大好きな人にとっては、この上ないほど大好物の映画になっているとも言えます。期待を裏切らないプリンセスストーリーに、前半の、絢爛豪華な、お城の綺麗な美術、そこから後半、一転して、描かれていく土にまみれた森の中や、汚い村の様子など、純粋さを究極に貫いて描かれた、この映画に出てくる全てのものが気に入ることでしょう。
そして、この純粋さこそが、この映画にとっての大きな価値でもあるのです。ジャック・ドゥミは、ヌーヴェルヴァーグの中で、そこに価値を見出した監督なのですから。
そうです。
この映画はヌーヴェルヴァーグの映画です。ネタバレを避けるので、あえて、言及していませんが、これがヌーヴェルヴァーグの映画だということは念頭に置いて見ていてください。冒頭の警告に当てはまるような、ファンシーが苦手な人も、そこを念頭に置いて、ぜひ、最後まで御覧ください。これは”単純な”ファンタジー映画ではありません。
近年、日本で名を挙げている、ファンシーセンス溢れるアニメ監督、映画監督が好きな方は、ぜひ、一度見てみて下さい。彼らの、美術センスの大きな源流の一つが、ジャック・ドゥミの監督作にあることを明白に理解できると思います。