映画感想:メイドインアビス 深き魂の黎明
恒例の手短な感想から
度し難く、ファンタジーの傑作
といったところでしょうか。
メイドインアビスは2017年に巷で話題になっていたアニメシリーズでした。極めて特徴的で作品をよく象徴している音楽のクオリティや、想像力豊かで残酷なアビス内部の様相、原作の漫画そのものの完成度の高さ、作画の良さ、そして、その苛烈な内容から話題となり、2019年には総集編の映画が公開されるにまで至った、そんな作品です。
そのメイドインアビスの最新作が、本作「深き魂の黎明」となります。公開前後から各所でいろんな意味で話題となっており、個人的にも内容が気になっていたため、鑑賞してきました。
結論から言って、本作は間違いなくファンタジー映画の傑作でしょう。大穴・アビス内部の狂気の沙汰としか言いようがない、奇妙な世界をこの上なく堪能することが出来る作品になっており、グロテスクで幻想的なイマジネーションの数々は、まるでヤンシュワンクマイエルの芸術映画のような魅力を放っています。
それどころか、アビス内の原生生物たちが繰り広げる、残酷で容赦がなく、合理的な生態系と、どこか可愛げがありながらも、不気味さを感じさせる造形などはジム・ヘンソンの芸術性にも近しいものを感じられます。
これだけでも十二分に素晴らしいのですが、なおかつ、本作にはその独特な話運びにも大きな魅力があるのは言うまでもありません。
アビスという酷薄な世界の中を生き、進んでいくために、心を歪ませてしまった――あるいは元から歪んでいた――登場人物たちが繰り広げるストーリーは、複雑な事情と複数の事実、複雑な感情が絡み合っており、一つ一つが「こいつが一方的に悪い」「こいつはこいつが嫌いなんだ」などとは言い切れない内容となっています。
特に自分は、この映画内だけでもストーリーが多重的に絡み合うように作られていることにだいぶ感心しました。
例えば、映画冒頭で描かれていた、クオンガタリがトコシエコウの花畑に化け、探検者や原生生物たちを生きたまま捕らえていたエピソードは、アビス内部の残酷な生態系を示すと同時に映画の重要キャラクターである「ボンドルド卿の正体」も暗喩しているのです。
劇中でのボンドルド卿の行動なども冷静に考えてみると、クオンガタリのやっていたこととあまり変わりがないのですから。
このようにメイドインアビスは、ただ残酷で奇妙なイマジネーションを垂れ流すだけには至らず、そのストーリーの構成なども非常に計算されており、エピソード一つ一つが重なり絡み合い、メイドインアビスという作品の世界に厚みを持たせているのです。
その多層的なストーリーが、奇譚なく発揮されるのが本作の中心エピソードである、プルシュカとボンドルド卿の関係性であり、その二人の顛末でしょう。
この、「単純な愛憎では決して片付かない関係性」が見事に描かれているだけでも、本作はとても重い価値があると言えます。
ぜひ、劇場でご覧になることをオススメしたいです。