儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:帝一の國


「帝一の國」予告

 恒例の手短な感想から

最高じゃねぇか!

 といったところでしょうか。

 

 上記予告編を見た段階で、なんとなく気になっている映画ではありました。本作「帝一の國」。上手く言えないのですが、映画館で予告編を見ているうちから画面の作りがしっかりしている印象があったのです。

 ひょっとすると、少しくらいは面白い映画なのかもしれないなぁと、頭の片隅で「帝一の國」の名前をインプットしていたのですが、いや、本作、かなり面白いです。ここまで面白いとは予想していませんでした。

 

 まずなによりも、やはり、画面の作りがしっかりしているところが素晴らしいです。

 本当に海帝高校が実在するのではないかと思わせるレベルで、美術が作り込まれています。いえ、高校だけでなく、登場人物たちの衣装や、髪型はもちろんのこと、小さい小道具に至るまで全てが、ビジュアル的に納得できるレベルまで仕上げられているのです。

 おかげで、かなりありえない設定で、かなり性格が極端すぎる登場人物たちが出てくるというのに、不思議と映画を見ているうちに「ありえるかもしれない」と思えてしまうのです。

 画面が、この映画の説得力を補強しているのです。

 そして、その上で登場人物たちの描き方も上手いのです。

 いわゆる、自分が散々に邦画で辟易していた「説明的なセリフ」というものが、本作では滅多に出てきません。しかし、本作は見ているだけで、登場人物たちの性格や関係性まで把握できるようになっています。

 これは演じる役者たちの演技力が素晴らしいのはもちろんのこと、例えばちょっとある人が行動したシーンで、ワンカットだけ、他の人が表情を変えるカットを入れたりすることで、自然と「この人と、この人がライバル関係なのか」と観客に把握できるように作り手が工夫しているためです。

 ここまで極端な、ステレオタイプの、大味そうなコメディ映画なのに実は、細かいところの気配りが良く出来ているんです。

 細かいところの気配りで言うと、伏線等の張り方も素晴らしかったです。わざとらしく「はい。これ伏線ですよー」と思わせるような撮り方はせず、本当に一瞬だけ登場人物に伏線になることを言わせたりしているだけなのです。

 しかし、だからこそ、「アレ、伏線なのかよ!」と分かった瞬間の意外性が大きく、素直に「やられたー」と思えてしまうのです。

 

 そして、なによりも、普通に話が面白かったです。

 特にクライマックスの選挙シーンは、本当に話の運び方と、編集の仕方、そして、そのクライマックスに持ってくるまでの登場人物たちの心の揺れ動きの描写の積み重ねが上手く、ただの生徒会の、それも、たかだか規模にして100名以下の人しか投票しない選挙の、投票シーンなのについつい手に汗を握って見てしまうのです。

 本来、どうでもいいはずのシーンにここまで緊迫感を持たせられたら、もう映画としては申し分がありません。

 

 ――というか、こういう映画をこそ、傑作と呼称すべきでしょう。

 

 そして、全体の筋書きもキチンとしており、映画の基本である「主人公の挫折」をちゃんと入れ、そして、そのくだりになって初めて、それまで一切思いを言ってなかった帝一が本当の思いを明かす構成にしているなど「一体、作り手が何を描きたくて、何を観客に見せたいと思っているのか」が、ストレートに説明無しで伝わってくる出来になっています。

 最後に、"更にちょっと捻ったオチ"を持ってくるところも良いです。そのおかげで「少し長いな」と感じたエピローグ部分が、「あ、このオチのためだったのか」と納得できてしまい、エピローグが長くても許せてしまうのです。

 

 まあ、あえて言うなら、この映画は欠点として、少し序盤の描き方というか、観客の映画への引き込み方が上手くないところがあるのですが……それを加味しても、長い尺を感じさせない素晴らしい出来でした。

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