儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:ジョン・ウィック


キアヌ・リーヴス復活!『ジョン・ウィック』本予告編 - YouTube

恒例の手短な感想から

シュールすぎるけど、最高

といった感じでしょうか。

 

 まず最初に記しておきたいのは、この映画は僕にとっては最高だったということです。

 ただ、この映画は欠点――というよりは、全体的に見てバランスがおかしい部分が異様なほどある映画で、ハッキリ言って、普通のアクション映画だけを見慣れている人からすれば「なんじゃこりゃ」の一言で一蹴されかねない内容であるということもまた言えるでしょう。

 それくらい見る人を選ぶ映画となっています。

 

 どれくらい人を選ぶかというと、例えば序盤。主人公が敵役に復讐を誓うまでの経緯。この経緯があきらかにおかしいのです。この序盤、端的に説明すると「不治の病に犯されていて、残念ながら亡くなってしまったジョンウィックの奥さんが、死に際、ジョンウィックが寂しがらないように遺した子犬を、強盗に入った敵役が、ジョンウィックに暴行を加えたうえで、目の前で殺してしまい、それに怒ってジョンウィックが復讐を始める」ということなのですが、こうして、文章にすれば分かるとおり、妙に設定が入り組んでいて、イマイチ感情移入ができない状態となっています。

 かつ、その序盤の経緯を「深刻な感じで、顔に影を付けた感じの小難しい演出で」描いていくのですが。この"小難しい感じの演出"が、大袈裟にやりすぎていて、かつ、演じているキアヌ・リーブスのアレな感じも加わって、なんだか、そういう小難しい映画のパロディみたいに見えてしまって、妙に笑えるのです。

 この序盤に限らず、ものすごい残酷な描写も多いバイオレンス映画なのですが、何度か深刻な演出や、バイオレントな演出を「やり過ぎなレベルを超えるくらいでやり過ぎ」ていて、思わず笑いそうになってしまうシーンも多いのです。ある種、鈴木清順の任侠映画を見ているような、シュールさと笑いを覚える内容です。

 事実、終盤、敵のボスが、片っ端から部下を殺したうえに、死にものぐるいで追いかけてくるジョンウィックを見ながら「ハハハ。もはや、笑えるな」と笑ったりしているので、どうやら作り手たちも、ある程度「この映画は描写を大袈裟にやりすぎていて、もはや笑える状態だ」ということに自覚的なようです。

 

 そして、そういう自覚があるせいなのか、この映画は徹頭徹尾、いろんな要素がシュールです。話の設定も「殺しの烙印」や「ピストルオペラ」にどことなく似ており、そのこともあって、この映画を見た人の中には、ニコラス・ウィンディング・レフンの「ドライヴ」などを連想する人も出てくるでしょう。

 また、昔の日本の時代劇や任侠映画を連想させる内容でもあります。例えば、妻を失って虚無感を抱えているジョン・ウィックの姿は、眠狂四郎のようですし、かと思えば、近づく人を片っ端から化物のように撃ち殺していくジョン・ウィックの姿は座頭市のようにも見えます。もともと、話の筋書きが任侠映画っぽいところもあり、場面場面で、日本の時代劇・任侠映画の影響を幻視できるのです。(ちょっと五社英雄映画っぽいところもあるような…)

 実際、キアヌ・リーブスは、千葉真一の大ファンであるような日本映画好きということなので、ここらへんは製作総指揮に関わった彼の趣味がモロに出ているのかもしれません。

 そして、その上に極めて面白いアクションが積み重ねられているのです。アクションシーンはどれもアイディア自体が素晴らしく、いわゆる、ガンカタ的な(作り手はガン・フーと呼んでいるようですが*1)ハンドガンによるガンアクションもあり、かと思えば、マシンガンによる正統的な銃撃戦もあり、肉弾の格闘戦もあり、ナイフアクションもあり、いかにもな悪女キャラとの戦闘もあり、車を手足のように乗り回しながら、敵を次々撃ち殺していくという斬新すぎるアクションもあり、と、アクション自体も目白押しです。

 言ってしまえば、この映画はそういう、日本映画の断片やらとガンアクションやらがくっついてできたみたいな映画です。ある種、ドラッグムービーよりも苛烈にドラッギーな映画です。そういう映画を見るつもりで見ると、最高の体験になるでしょう。

*1:ただ、正直、本編を見てると任侠映画っぽいこともあってか、カンフーというより、ドスによる斬り合いの殺陣に見えてしまうのですが…笑

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