映画感想:オンリーゴッド
※ネタバレあり
感想を端的に。
最高じゃないか!
僕としてはそこまで難しい内容でもなく、意外と理解できる映画だったので(もちろん理解の程度は100%ではなく、そこそこだけれども、まったくワンシーンも意味が分からないというわけでもなかった)驚きました。前評判が悪すぎです。ただ、これがアメリカ等で評判が悪かったというのも分かりますが。なぜなら、この映画、キリスト教圏の人たちには分かりにくいと思うのです。
原題は「Only God Forgives」訳すならば「神のみぞ許す」でしょうか。このタイトルだけならば西洋の人たちにとってはキリストの話だと受け取ってしまうはずです。が、しかし、実際にこの映画で描かれている神は、キリスト教圏のそれというよりも、東洋のゾロアスター教やヒンドゥー教、インド神話などで描かれる神に近いのです。ようするに多神教における神であり、一神教の人にはあまり馴染みない神の姿なのです。*1
この映画における神とは、警官の姿をしている「チャン」です。この警官は、作中で最強です。なぜかというと、神だから。少なくとも、神でなくとも神の使いのような存在であることは間違いがないでしょう。神レベルの人なので、なにがあっても死ぬことがないですし、そして、誰にも負けることがありません。また、それと同時に、この復讐の神の使いは、復讐だけではなく戦いを象徴する、戦いの神であることが劇中で何度も強調されています。ボクシング会場に、木彫の金剛力士像的なものがありましたが、あれが彼なのでしょう。ついでにいえば、人を裁くために、人を試すような行動を取ることも多く、人を審判する神であることが分かります。
また、この映画には、もう一人、別の神も存在していました。主人公、ジュリアンの母「ジェナ」です。主人公「ジュリアン」にとっては、ジェナは、盲信し続ける対称であり、もう一人の神として存在していました、いうなれば、ジュリアンが信奉している邪神といえるかもしれません。彼女は、性欲や暴力衝動や怒りというものに忠実な人間でした。どんなに自分側に非があるようなことでも、怒りの感情を優先して、人を殺すことを指示します。ジェナはそういう「人間が抱える業の邪神」と捉えることができます。
そして、その復讐の人を裁く神の使いと、人間の業を象徴する邪神の二人に板挟みになりながら、葛藤していくジュリアン。ジュリアンは女性の股に手を入れたいという欲望を抱えながらも、ジェナのような欲望だらけの、麻薬を売るような人を信奉し、その道に溺れながらも、それと同時にそれを抑制しようとしている青年でもありました。ある意味で、この映画はそういった欲望と理性の間で、葛藤するジュリアンの内的心象を、象徴的かつ具体的な形で映像にしていった作品ともいえるかもしれません。
ともかく、こういった読解を脇に置いたとしても、なかなか面白い作品だと思います。映像美は相変わらずで、さすがニコラス・ウィンディング・レフンだなぁというところです。特にネオンライトの色彩感覚や、配置にはこの監督独特の美意識が生きていて、そこに注目するだけでも料金分は楽しめるのではないかと思います。音楽も素晴らしい。今回はタイの歌謡曲まで入っていたりして、かなりエキゾチックさが増しています。音楽を使うタイミングも相変わらずエキセントリックです。個人的には、インファナル・アフェアなどをちょっと連想したりもしました。それくらい、まったくの芸術映画ではなく、ある程度エンターテイメント要素も入れている映画だと思います。*2