儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

変則映画感想:ひな鳥の冒険


『ファインディング・ドリー』と同時上映される短編アニメ『ひな鳥の冒険』本編映像

恒例の手短な感想から

これのために1800円払ってもいい、大傑作!

といったところでしょうか。

 

 この映画『ひな鳥の冒険』は、さきほど感想記事を書いた『ファインディング・ドリー』で併映される短編アニメーションです。

 このブログでは、普通の場合、こんなことはやらないようにしているのですが、今回は、作品の出来がかなり良かったため、特例としてこの記事を書くことにしました。

 

 この手のディズニー/ピクサー作品に併映される短編アニメーション。一時期はかなりのクオリティと意欲的な作品が多く、非常に面白かったのですが、正直、ここ3年ほどはクオリティ的にも話の構成的にも、また意欲という意味でも薄っぺらい作品が多く、感心することはあまりありませんでした。

 しかし、本作『ひな鳥の冒険』は、久しぶりにピクサーの本気を見ることが出来る傑作です。端的に言って最高でした。話自体は極めてシンプルな、大きな出来事など何一つない子どもの成長譚なのですが、しかし、その物語を支える描写や、表現のクオリティがずば抜けて素晴らしいのです。

 まず、上映始まってすぐに分かるのは、CGのクオリティが高すぎるということです。あの海岸の様子……一瞬、誰もが実写かと錯覚してしまったはずです。それくらいに波の泡立ち方といい、光の反射といい、砂の濡れ方といい、全てがよく実際の海岸を観察して描写しているのがよく分かるのです。

 そして、そのリアリティ高い海岸にやってくる、主役となる海鳥達の様子もまた素晴らしいものでした。まず、今までのディズニー・ピクサー的な、もっと言えばCGアニメ的な、デフォルメがなされた動物像を完全に覆す、リアルな鳥の様子を描き出しています。

 

 しかも、この短編において、鳥はほぼ擬人化されていないのです。上記の本編を見てもわかると思いますが、完全に動物です。今までは、この手のCGアニメでは、なるたけ動物はデフォルメと擬人化で、ある程度中和をするのが基本でした。

 もちろん、CGの技術が上がるに連れて徐々に擬人化とデフォルメの程度は軽くなっていくのですが、それでも、まだまだ「あぁ、中に人が入ってる感じがあるな」と思える瞬間がありました。

 

 本作には、それがほとんどありません。鳥なのです。仕草も行動も、全てが鳥にしか見えないのです。しかもすごいのは、行動の一挙手一投足が鳥にしか見えないにもかかわらず、主役たちの行動の意味がパントマイムのみで理解できるのです。

 パントマイムということは、つまり、人間的な行動でもあるのですが、本作はそのパントマイムの細かい塩梅が素晴らしいおかげで、パントマイムであるのに、まったく人間が入っている感じには見えません。

 

 これは、なぜかというと、動物たちも稀にですが人間に見えるような仕草を取るからです。人間っぽく、迷って動きまわったり、驚いて仰け反ったりすることは、よく知られていることでしょう。

 本作の鳥達のパントマイムは、全てその「動物が取る、人間っぽい仕草」の範疇におさまるようにしてあるのです。

 

 そのため、鳥達の行動は非常にリアルであるにも関わらず、物語は人間的な『日常での成長譚』を描けているのです。

 この絶妙なバランスに、本気で唸ってしまいました。しかも、擬人化が得意なディズニー・ピクサーで、こんな短編が見られるとは……。この短編は、擬人化でも、野生化でもない、第三の新しい動物表現を見出した短編と言えるかもしれません。

 

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