儘にならぬは浮世の謀り

主に映画の感想を呟くための日記

映画感想:ぼんとリンちゃん


映画「ぼんとリンちゃん」予告編 - YouTube

 

 恒例の手短な感想から。

とんでもないほど暗い傑作だ。

といったところでしょうか。

 

 大袈裟でもなんでもなく、この映画を見るときは、ある程度覚悟をして見に行ったほうがいいです。少なくとも、傷心の状態で見に行くと、余計に落ち込んでしまうことは間違いないでしょう。ハッキリ言って、この上ないほどの現実を突きつけることでアニメや漫画といった幻想の世界を叩き潰そうとしていると評されてもおかしくない映画です。

 

 同じ小林啓一監督の作品である「ももいろそらを*1」からは、だいぶかけ離れた印象を持つことでしょう。テーマ的に「ももいろそらを」とも通じるようなところもあるのですが、「ももいろそらを」はそれでもどこか希望を残していたように思います。ですが、この「ぼんとリンちゃん」では、その希望の部分が完全にありません。

 

 むしろ、絶望を叩きつけた後で、もう一回、観客に絶望を叩きつけ直すような映画になっています。そして、絶望を二度叩きつけた後で、最後に、非常に虚しいラストを添えて終える、という本当に希望がない映画なのです。

 

 それを「ももいろそらを」でもみられた、どこかドキュメンタリー映画と錯覚してしまうような、あの手ブレしたりするようなカメラワークと、かつ、雑音多めの音響で描いていくので、洒落になりません。しかも、今回は「ももいろそらを」のときにあった、「こんな人物いるわけないだろ」というところが一切ありません。登場人物の一人一人の設定や、見た目等もまたとてもリアルに作られています。

 

 そもそも、まず、オタクの描写が妙にリアルです。容姿だけでも完璧に分かりますが、リアル過ぎるのです。それも、いわゆるパブリックイメージのオタク(紙袋持って、容姿が気持ち悪くて…)とはまったく違い、若い世代のオタクたちは、至って普通の格好、あるいは下手すればおしゃれな格好もしているけど、やっぱり言動はオタク的なところがそこかしこに見られる、という絶妙なバランス。かつ、若い世代のオタクがそうやって、自分がオタクであることを一目で分からないように”隠している”のに対し、中年世代のオタクは、明け透けに出したファッションをしている、というところも、リアリティが高すぎです。

 身につけている服装だけでも、思わず「あー、こういうのあるある」と言いたくなってしまう絶妙さのオタク像。そして、その絶妙なバランスの中、物語内で具体的に描かれていくオタクの姿が、これまた絶妙に現実感に溢れています。とにかく、細かい仕草から言動から部屋の様子から、呑んでいる時の愚痴まで、全てが「あー、こういう人、確かに居たよ!」と思うようなものになっているのです。

 

 しかも、そのリアルな登場人物たちが抱えている葛藤が、これまたリアルで、このままでいいのだろうかという「将来への不安」を口にするところ、実際の生活をしていくために、辛い仕事を続けていることをさり気なく言うところ、歳を取っていく自分を鏡で見て「はぁ」と溜息をつくところなど、二十代の人間ならば、オタクでない人まで覚えがあるような普遍的な葛藤が織り込まれています。

 僕も、二十代の人間として、この映画の登場人物たちのような、将来への不安感――それも、一体なにをしたらいいのかさえよく分からないという、漠然とした不安感――を覚えながら毎日を生きています。この映画は、その漠然とした不安感を、漠然としたまま、見事に描ききってしまっています。

 とにかくこの映画には、漠然とした不安感が漂っているのです。それは将来への不安でもありますし、今の生活への不安でもありますし、果ては死ぬことへの不安でもあります。

 そして、その不安の中で、どう足掻いても不安を取り除くことができない現実に、絶望し、それを必死で忘れようとしている――そんな、この国ではよくある人の姿を的確に捉えている映画です。

 見終わった後で、現実が嫌になりそうになる映画なことは間違いないでしょう。

 しかし、だからこそ素晴らしいです。

 

 「本当の不安」をこれほど実直に描いてくれるなんて、僕は、正直に言って、嬉しいです。

*1:ちなみに、当ブログの初期に、こちらの作品の感想を書いています。映画感想:ももいろそらを - 儘にならぬは浮世の謀りこれも面白い作品ですので、ぜひ、見てみてください

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