映画感想:ヴェノム
恒例の手短な感想から
SFホラーとしては失敗作。が、面白い。
といったところでしょうか。
決して本編がつまらないというわけではないのですが、こう評するのが本作に対しては的確でしょう。
宣伝が上手すぎてしまった、と。
予告編の巧妙な編集や、ポスターのビジュアルなどがあまりにも秀逸であるあまり、本編を見たときの「あれ、思っていたのと全然違うものだった」という感じは、どんなに本作が好きな人であっても認めざるを得ないのではないでしょうか。
事実、自分もかなり本作に対しては好感を持っているのですが、それでもやはり、「予告編の期待からすると二割引きの出来である」と言わざるを得ません。
――己の体が寄生され、少しずつ侵食されていくという恐怖極まりないシチュエーションならば、きっと本編は、アメコミヒーローものでありながら一線を画す内容であるに違いない――おそらくは、スピーシーズやエイリアン的なSFホラー要素がふんだんに混ぜられ、ゲームのR-TYPEのような、グロテスクな造形が跋扈するような――そんなヒーローものになるんじゃないか――。
そんな高すぎる期待、いえ妄想に胸を膨らませていたために、そんな要素なんて僅かしか入っていない本作に、やはり肩を落としてしまう面はあるのです。
シーンによってはSFホラーとして落第点と言ってもいい箇所も存在しています。ハッキリ言って、ちっとも怖くないのです。自分の体が寄生されていることへの恐怖感なんて、微塵もありません。ただ、ところどころ、びっくり箱のホラー演出が入って、子供だましに「わっ」と脅かしてくるだけです。
エイリアンをオマージュしたと思わしきシーンなんて、描き方がお粗末すぎて、ホラーと言うより登場人物が全員アホのパロディコメディにしか見えない始末です。
ですが、本作、自分としては好感を持ったのも事実なのです。まずなんといっても、本作の魅力は「ゆるい」という、そこにあるでしょう。本作は主人公も、他の登場人物も、なんならヴェノムでさえも、異様にゆるいのです。
そこになんとも言えない共感を覚えるのです。
地に足がついている感覚があるのです。
このブログでは、結構前々から言っていますが、昨今のヒーロー映画は面白さはおいておいても、妙に神話じみていて、眉間に皺を寄せて難しい話をしている傾向がかなりあります。*1そのために、どうしても、話が壮大なものになってしまい、鑑賞していても「なんか、これ最終的に自分たちと関係ないところの話をしているなぁ」という印象をどうしても抱きがちでした。
つまり、どこか雲の上の話を、地に這いつくばっている下賤の民がありがたがっている感じが、なんだかしてしまうことが多いのです。*2
本作には、それをあまり感じないのです。
最終的に、うだつの上がらない主人公と、うだつの上がらないモンスターが「一緒に力を合わせて偉そうな連中を見返してやろうぜ!」と言ってるだけの、極めて単純な心理と動機に、地に足の着いた人たちは共感せざるをえないのです。*3
だからこそ、自分もSFホラーとして失敗していると思いつつも、本作に関しては「非常に面白かった」という評価になるのです。
本作が評論家には不評で、観客には好評を得ているのも当然のことではないでしょうか。